服部容疑者は「小田急線の事件を参考にした」

服部容疑者は「小田急線の事件を参考にした」と供述しているそうだ。

今年8月6日、東京都世田谷区の登戸―祖師ケ谷大蔵間を走行中の快速急行内で、36歳の無職男が座席に座っていた女子大生らを刃物で切り付け、10人が重軽傷を負った。男は最初に女子大生を襲ったことについて「服装などから勝ち組っぽいと思った。以前から勝ち組で幸せそうな女性を見ると殺したいと思っていた」と供述していると報じられた。

日本の地下鉄
写真=iStock.com/RichLegg
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2018年6月9日には東海道新幹線で男(当時22歳)が3人を殺傷する事件も起きている。この男は裁判で「男だろうと女だろうと、子どもだろうと老人だろうと、殺すつもりだった。刑務所に入りたかった。無期懲役を狙った」と語っている。

無差別殺傷事件は繰り返し起きている。特に衝撃的だったのは、2008年の東京・秋葉原の事件だろう。当時25歳の男が秋葉原電気街(東京都千代田区外神田)の歩行者天国にトラックで突っ込み、通行人をはねたうえダガーナイフで次々と刺し、7人が殺害され、10人が重軽傷を負った。

男は手記に「ネット上の成りすましに対するトラブルが動機のすべてだ」などと書いていたが、裁判では社会への強い不満をもっていたことが明らかになっている。

人々が事件を怖がるほど、犯人は動機が高まる

無差別殺傷事件では、社会に対する不満や恨み、憎悪が動機として語られる。容疑者本人が犯行までそうした欲求を自覚していないケースもある。なぜ社会に不満や恨みを持つようになったのか。再発防止のため、専門家による分析は欠かせないだろう。

その一方で、こうした事件はきわめて稀にしか起きていないことも踏まえるべきだろう。大きく報道されるため、無差別殺傷事件が頻繁に起きているように感じてしまうが、それは事実ではない。無差別に死者の出る凄惨な事件は数年に一度しか起きていない。日本の「他殺率(人口10万人当たりの他殺者数)」は世界最低の水準で、日本ほど安全な国はない。

事件を大きく取り上げ、世間が過敏に反応すれば、「注目を集めたい」と考える模倣犯を招く。今回の京王線の事件を受け、防犯カメラの設置や警備員の巡回、ドアの開閉などの対策強化が論じられている。もちろん必要なことだが、そうした対策で再発を完全に防げるわけではない。

重要なことは、直接的な対策よりも、こうした事件をわれわれが無視し、暮らし方を変えないことだ。人々が事件を怖がるほど、社会を攻撃したい犯人にとっては動機が高まることになる。事件に対して毅然とした態度を取ることが、結果として再発防止になる。