2018年6月、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、女性2人が重軽傷、男性1人が死亡した。殺人犯の小島一朗(犯行当時22歳)は、犯行の動機を「無期懲役を狙った」と話し、一審で無期懲役を言い渡されると、万歳三唱して、刑を受け入れた。約3年にわたってこの事件を取材し、『家族不適応殺』(KADOKAWA)にまとめたインベカヲリ★さんに聞いた――。(前編/全2回)

無差別殺人犯が何を考えているのかを知りたかった

——なぜ小島一朗に取材したいと思ったのですか。

写真家のインベカヲリ★さん
写真家のインベカヲリ★さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

写真家として活動する前から私がもっとも興味を持っている対象が、人の心だったんです。人は、なにを考え、どんな気持ちを抱えているのだろう。そんな関心がずっとありました。

写真家となってからは300人以上の一般人女性を撮影してきました。どんな人生を送ってきたのか、どんな経験をして、どんな感情を持っているのか……。丁寧に話を聞き、イメージを膨らませて作品に落とし込んでいくんです。

それに、小島が事件を起こす前から、無差別殺人犯とふつうの会話がしてみたいと思っていました。無差別殺人犯って、一般的な人にとっては理解できない犯行動機を語るじゃないですか。小島もそう。裁判が終わっても、なぜ犯罪が起きたのか誰も納得できない。あとで振り返ってもほとんどが、結局あれってなんだったんだろう、という形で終わってしまう。単なる異常者で済ませてしまっていいのか。無差別殺人犯である小島が、何を考えているのか、どんな言葉で話すのか、知りたかったんです。

——小島は犯行の動機を「刑務所に入りたかった」と語り、無期懲役の判決に対して、法廷で万歳三唱をしています。コミュニケーションのとれる相手なのでしょうか。

2019年5月から面会をはじめて、12月末まで全部で13回接見しました。本当の意味でのふつうの会話――小島が心を開いたかなと感じたのは最後の1カ月半くらい。

私のインタビュアーとしての実感なのですが、女性は自分の体験談をもとにした感情を語っていくケースがほとんどです。一方、男性は知識を取り入れ、社会的な文脈で自らの考えや分析を話す人が多い。そのせいか、男性に話を聞き、掘り下げようとしても感情の手応えをなかなか得られない。その意味で、小島のコミュニーションは、極端過ぎるほど男性的でした。相手に対して隙を見せずに、感情を伏せて常に自分なりの論理、理屈でしゃべってくる。