不意打ちの面会で見た小島の本来の姿

たとえば、最初に面会した日、小島はこう話しました。

「刑務所に入るのは子どもの頃からの夢だったから、私もかなり調べたんですよ。できれば長く入っていたい」

私が「世の中には、累犯で2年置きに刑務所に入るような人もいると思うけど」と聞き返すと彼は「いますね。でも、1回出所すると優遇区分とか、制限区分とかはリセットされてしまうんです。私は模範囚を目指しているので、昇進するためには無期刑になる必要があるんです」とセリフを読み上げるように答えました。

毎回そんな感じでした。あらかじめ用意した言葉しか話さない小島に対して、最初はふざけているとしか思えなかった。

あるとき、私は彼が言葉を過剰に大切にしていると気づきました。私との会話や手紙の内容も一語一句、覚えている。多かれ少なかれ、人は勘違いや記憶違いをしますし、同じ体験をしても人によって受け止め方や印象は変わります。でも、彼は、その矛盾をとても嫌うんです。

そんな彼が、素を見せてくれたのは長いやり取りをして信用を得たという以外に、不意打ちをしたのが大きかった。

それまでは前もって面会の期日を約束していたのですが、ある日、突然面会に行ってみました。言葉を準備していなかったせいか、私の質問に対して、いつもと違って動揺していた。とはいえ、そのときですら本で得た知識を滔々と話す「小島節」に変わりはないのですが、落ち着かずにそわそわしていた。その様子を見て、ふざけているのではなく、それが小島の本心であり、ちゃんとその意味を掘り下げなければいけないのだと気づきました。

金属製のフェンス
写真=iStock.com/SteveLuker
※写真はイメージです

「家族の病理」とは

——「ふつうの会話」を交わして、インベさんの小島に対する印象や見方に変化はありましたか。

どうだろう……。小島が言っていることは同じなので、変わっていない気がします。ただ彼から私に対する猜疑心や警戒感が消えたように感じました。そこからですね、わずかな時間でしたが、彼の感情に触れた気がしたのは……。

——家族不適応殺』というタイトルにもあるように、小島の家族にも焦点を当てていますね。

家族に責任がある、ということではないと先に明言しておきます。私の勝手な分析、印象でしかないのですが、殺人事件に関する資料を読んでいくうち、個人の病理だけではなく、家族間の軋轢、親子関係、兄弟姉妹の関係といった普通の家庭でもあるイザコザが、ボタンの掛け違いで拡大していくことが犯罪の原因になっているのではないかと考えるようになりました。

小島の場合は両親の仕事の関係で、3歳まで母親の実家である「岡崎の家」(愛知県岡崎市)で母方の祖母と過ごしました。その後、両親と父方の祖母が暮らすところに引っ越した。