2018年6月、走行中の東海道新幹線の車内で男女3人が襲われ、女性2人が重軽傷、男性1人が死亡した。殺人犯の小島一朗(犯行当時22歳)は、犯行の動機を「無期懲役を狙った」と話し、一審で無期懲役を言い渡されると、万歳三唱して、刑を受け入れた。約3年にわたってこの事件を取材し、『家族不適応殺』(KADOKAWA)にまとめたインベカヲリ★さんに聞いた――。(後編/全2回)
新幹線
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「私なら無差別殺人犯の言葉を引き出せるんじゃないか」

前編から続く)

——なぜ無差別殺人犯の内面に関心を抱くようになったのですか。

2008年に茨城県土浦市で、9人を無差別に殺傷した事件がありましたよね。犯人の金川真大は交番に自首し、「死刑になりたかった」と犯行の動機を語りました。

数年後に読売新聞が取材した『死刑のための殺人 土浦連続通り魔事件・死刑囚の記録』(新潮文庫)が出ました。それを読めば、金川は死刑になりたくて無差別殺人を犯したとは理解できる。ただどうしても分からないことがありました。それが、彼がなぜ、そんな心境にいたったのか――。たぶん私だけではなく、みんな同じだったんじゃないでしょうか。それなのに、事件の真相は一切解明されないまま裁判が終わり、異例の早さで死刑が執行された。

彼が何を考えていたのか。いまとなっては知るよしはないのですが、「土浦連続通魔事件」に関する本を読んで、金川が記者たちとたくさんの会話をしていたことに驚きました。彼が語っていた意味不明な発言の数々も、一生懸命に聞き役に徹して理解しようとしたら答えが見えたのではないかと感じました。簡単なことではないと分かっているのですが、私がこれまでやってきたコミュニケーションなら、もしかして彼に罪を犯すにいたった心境を語らせることはできたのではないかと。

それから数年経ち、同じように理解不能な犯行動機を持つ小島一朗が東海道新幹線内で3人を殺傷する事件を起こした。それで小島と手紙をやり取りして接見を行うようになりました。実際、小島へのインタビューは、とんでもなく難しく、時間もかかり、私も疲弊してしまったのですが……。