ひたすら相手の言葉を肯定的に受け止める
——インベさんのインタビュアーとしてのスタンスや手法を教えてください。
私は写真家になってからの20年間で300人以上の一般人女性に話を聞き、撮影してきました。被写体となった女性たちは、日常生活で表現しきれていないものを抱えていました。それは同時に、見えていない自分を写真を通して可視化したいということでもあります。作品になるということは、第三者の視点で自分を眺めることですから。私は、「話したいことがある」ことと自己表現欲求は重なると考えているんです。
だから私の被写体になってくれた女性は、言葉が少なくても、話すつもりがなくても、必ず何らかの思いや感情、体験を、自分なりの言葉で語ってくれる。インタビューを終えたあと、こういう話をしたのははじめてだったと口にする女性も少なくありません。
私のインタビュアーとしてのスタンスは、相手の言葉を否定せずに「あぁそういうことなんだ」とひたすらに受け止めるだけ。経験上、あらゆる角度から質問を繰り返していくと、話題があちこち飛びながらも、ふいに全部の話がつながる瞬間があるんです。
「ふつうの青年」が無差別殺人を起こすようになってきた
相手を知りたいと思ったとき、否定的な言葉を挟むと相手は心を閉ざしてしまうんですよね。まして殺人犯の場合、自らの意思で悪人に徹しているわけですから、正論を述べたところで響かない。反省を促そうとすると、相手はますます頑なになって露悪的に振る舞ったりしますから。ただただ話を聞きます、という態度で向き合わないといけないのではないかと私は思いました。
——『家族不適応殺』で、池田小児童殺傷事件(2001年)の宅間守に代表されるように、かつての無差別殺人犯は性格の異常性や攻撃性などを持ち、度重なる前科前歴があるケースが多かったと指摘しています。一方、金川真大や小島一朗らは前科前歴もなく友人もいる「ふつうの青年」だったと書いている。社会の変化によって、殺人の動機が変わってきているということでしょうか。
正直、そこは分かりません。ただ社会の変化という点で言えば、この20年ずっと女性へのインタビューを繰り返してきた私の実感として、社会がフラットに病んできているとは感じますが……。