昨年、習近平主席が「前向きに検討する」と発言していた
中国が9月16日に日本やオーストラリアなど11カ国で構成する「TPP(環太平洋パートナーシップ)」への参加を正式に申請した。TPPはもともとアメリカのオバマ政権が推進してきた経済安全保障の枠組みだ。経済成長を武器に覇権主義を強める中国に対し、民主主義の国々が中国包囲網を形成することが目的だった。そのTPPに中国が参加しようというのだ。
昨年11月、習近平(シー・チンピン)国家主席はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議で、TPPへの参加について「前向きに検討する」と表明していた。あの発言は本気だったのだ。中国の習近平政権は、いったい何を企んでいるのだろうか。
トランプ前大統領の決めた「離脱」が尾を引く
TPPとは多国間の自由貿易協定(FTA)である。2018年12月に発効し、現在、日本とオーストラリアに加え、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、カナダ、チリ、メキシコ、ペルーの計11カ国が参加している。
多くの物品に対して関税を撤廃し、自由な貿易ができる。その分、電子商取引や知的財産の幅広い分野でルールが定められている。特にデータ管理については、流通の透明性と公平性が確保される。
問題は、当初TPPに参加していたアメリカがトランプ前政権時代の2017年に不参加を決めたところにある。アメリカの復帰は中国への対抗手段になる。日本にとっても最大の輸出相手国であるアメリカが復帰すれば、中国への牽制になる。バイデン政権は早急に参加すべきである。出遅れたイギリスも今年2月に参加申請している。
しかし、アメリカ議会には復帰に慎重な声も多い。高度な貿易自由化を実現させたTPPに参加すると、安い製品の流入によって国内産業がダメージを受ける危険があるからだ。
そんなアメリカを尻目に中国が動いた。習近平政権はアメリカの不参加に目をつけ、TPP参加への可能性を探っていた。その結果、今回の参加申請となった。
中国は経済力を武器にTPPでの主導権を握ろうと考えているのだろう。環太平洋地域での経済的影響力を強化し、アメリカに圧力をかける狙いがある。