日本の経済はなぜよくならないのか。今年7月、イノベーション研究の国際賞「シュンペーター賞」を受賞した早稲田大学商学学術院の清水洋教授は「イノベーションによる生産性の向上が不可欠だが、日本企業にはそれを阻害する重大な問題がある」という――。

※本稿は、清水洋『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える』(新潮選書)の一部を再編集したものです。

立ち話する老齢のビジネスマン
写真=iStock.com/stockstudioX
※写真はイメージです

日本復活の鍵を握る「ベスト・プラクティス」

イノベーションは、どうしても既存のビジネスを破壊する側面を含みます。しかし、もし他社で高い生産性を示しているベスト・プラクティスが出てくれば、たとえそれが破壊を伴うものであっても、導入できるものであれば、生産性を上げるために導入する必要があります。生産性の高いところから学ぶことはとても大切です。

もし江戸時代の鎖国体制下のように、市場での競争が日本国内だけで行われていれば、「独自のやり方」に固執しても上手くいくのかもしれません。しかし、グローバル化が進展していくとそうはいきません。

海外の市場だけでなく、日本市場でも、日本企業は海外の企業と競争することになります。ライバルが採用しているベスト・プラクティスで取り入れられるものは取り入れていかなければ、徐々に置いていかれてしまいます。

ベスト・プラクティス導入への抵抗は、社会全体の生産性を下げてしまいます。この点は、イリノイ大学のステファン・パレンテとノーベル経済学賞を受賞しているアリゾナ州立大学のエドワード・プレスコットの二人が明確に指摘しています。

彼らは、ベスト・プラクティスと同じ程度の高い生産性の水準に追いつくことは、簡単だと言います。なぜなら、最も生産性の高いところのやり方を導入すれば良いからです。例えば、アメリカの生産性が高ければ、そこで使われている技術やサービスを導入すれば良いわけです。