「強者の論理」で片付けてはいけない

プレスコットは、理論的なモデルをつくった上で、アメリカと日本の戦後の成長の軌跡からパラメターの値をできるだけ現実的なもの(アメリカと日本の戦後の成長を説明できるもの)にカリブレートしていきました。

清水洋『野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える』(新潮選書)
清水洋『野生化するイノベーション:日本経済「失われた20年」を超える』(新潮選書)

その上で、そのモデルをフランス、西ドイツ、韓国、台湾の戦後の成長と照らし合わせて妥当性を確認しています。その結果、抵抗が大きいと、企業が新技術を導入する時に大きな投資(コスト)がかかってしまい、それが国の成長を阻害していることが改めて明らかになったのです。

新しい技術を導入することへの抵抗というのは、イノベーションによって破壊されないようにするために、大きな壁を作って自分を守っているようなものです。そのような壁を作っていては、世界で競争していくことはできません。

このように言うと、日本ではしばしば「それは強者の論理だ」と片付けられることがあります。しかし、その言葉が正当性をもつ社会ほど、ラディカルなイノベーションは起こりにくくなり、累積的なイノベーションを重ねることに多くの経営資源が割かれることになります。

【関連記事】
【第1回】「為替だけの問題ではない」ほかの国より圧倒的に勤勉なのに日本人の給与が増えない根本原因
「お金が貯まらない人は、休日によく出かける」1億円貯まる人はめったに行かない"ある場所"
東京随一の"セレブ通り"を走る富裕層が「テスラやレクサス」を選ばないワケ
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由