※本稿は、清水洋『野生化するイノベーション:日本経済「失われた20年」を超える』(新潮選書)の一部を再編集したものです。
かつて日本経済はアメリカ並みの成長を続けていた
日本でイノベーションが持続的に生み出され、経済が加速度的に成長するようになったのは、19世紀後半からです。まずは、明治維新後から2010年代までの成長の軌跡を見てみましょう。
図表1は、1885年からの一人あたりの実質GDPの成長を表しています。1885年(明治18年)は、日本で専売特許条例が公布された年です。これはイノベーターが得をすること(専有可能性を確保すること)を促すものであり、イノベーションが持続的に生み出されるためには重要な制度の導入でした。
まず注目してもらいたいのは、GDPを示す線の傾きです。右肩上がりの傾きが急になればそれだけ成長していることを示し、その傾きが緩やかになれば成長しなくなってきたことになります。
図表1を見ると、1885年から日本の一人あたり実質GDPはわずかずつではありますが、成長しています。アメリカと比べるとGDPの絶対額では日本はまだ3分の1程度ですが、アメリカの成長とほぼ同じ傾きで成長していることがわかります。つまり、成長のスピードとしては同じぐらいだったのです。
第2次世界大戦の影響から、1945年には大きく落ち込むものの、戦後、その傾きは急なものになります。特に1960年代から1973年のオイルショックまでのいわゆる高度経済成長の時には、アメリカと比べても早い成長をしていたことが分かります。急速にアメリカに追いついていたのです。
オイルショック以降、その成長の傾きはやや緩やかになるものの、依然としてアメリカとの差を少しずつ詰めています。ただ、1990年代に入ると、明らかに戦後のそれまでの成長とは異なり、成長がかなり緩やかになっています。それまでと同じような成長を維持しているアメリカと比べると、日本の成長は鈍化しているのがよく分かります。