現在の日本は少子高齢化が進み、多くの産業で人手不足が発生しています。そこで海外からの安価な労働者を増やして、彼らにたくさん働いてもらおうという考えが出てくるのは自然なことでしょう。しかし、気をつけなければならないのは、この考え方はまさに江戸時代の勤勉革命的なパラダイムにあるということです。
このような発想では、長期的に見ればむしろイノベーションを阻害してしまいます。むしろ高い人件費や人手不足をイノベーションのチャンスと捉えるような発想の転換が必要でしょう。
アメリカ経済を牽引するイノベーション
ところで、イノベーションの成長への貢献が少なくなっているのは、日本だけなのでしょうか。もしかしたら日本だけではないのかもしれません。そうであれば、日本の経済の停滞の犯人として、イノベーションに罪を着せることは冤罪ということになります。
そこで、同じようにトータル・エコノミー・データベースを使って、アメリカの成長を見てみましょう。まず、図表3の縦軸を見ると、日本よりもアメリカの方がデコボコしていることが分かります。つまり、アメリカの成長の仕方は不規則なのです。
TFPの動きはどうでしょうか。歴史的に見てみると、確かにアメリカでも経済成長に対するイノベーションの貢献は徐々に少なくなってきています。1960年代は経済成長へのTFPの貢献はかなり大きかったのですが、それが2000年代にはほとんどなくなっています。
2000年代に入ってTFPの水準が低下しているのは、アメリカや日本だけでなく、イギリスやドイツ、フランスなど多くの国で見られている傾向です。
しかし、日本では1970年代からイノベーションの貢献はほとんどなくなってきているのに比べると、まだまだアメリカでは以前ほどではないにせよ成長に貢献していることが分かります。
数字には反映されないアメリカの強さ
また、注意しなければならないポイントがあります。これまでの測定方法では、最近のアメリカのTFPを上手く測れていないのではないかという点です。情報通信技術の中には、社会的に大きな貢献をしているものの、それが現在のGDPでは上手く測れていないケースがあります。
例えば、グーグルやフェイスブックなどインターネットでは無料で使うことができるサービスが多くあり、それらは生産性の向上に寄与しているはずです。しかし、無料なので、GDPの数字に直接的には入ってきません。市場で取引されていないものはGDPには含まれないのです。