イギリスではパスポート導入も強制力はない

8月28日には、妻と2人で英作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの新作オリジナル・ミュージカル『シンデレラ』を鑑賞しに出掛けた。あまり家に閉じこもってばかりいると、インフルエンザなどコロナ以外の感染症への耐性が弱まってしまうからだ。劇場に入場するにはNHSが発行する「COVIDパス」(QRコード)が必要と案内には書かれていた。

ストレージの容量が大きい筆者のスマホには新しいNHSアプリをダウンロードでき、期限が1カ月のCOVIDパスを簡単に入手できた。問題はスマホのストレージ容量が小さく、NHSアプリを入れる空き容量のない妻だった。アプリが使えないので代わりにオンラインでNHSのウェブサイトに接続し、QRコードをプリントアウトした。

COVIDパス画面
NHSが発行するCOVIDパス(筆者がスクリーンショット)

COVIDパスはQRコードで2回接種、48時間以内の陰性、自然感染による免疫獲得(陽性判明から半年間)を証明する仕組みだ。NHSのコンピューターシステムに記録されたワクチン接種など個人の医療データをスマホのアプリを通じて活用する。今回のコロナ危機で医療費を効率的に使うためNHSのオンライン医療やデジタル化は一気に加速した。

今のところイギリスでは民間企業や業者はナイトクラブや音楽会場など混雑した屋内、ビジネスイベントやフェスティバル、音楽、スポーツ観戦など屋内外の大規模イベントでCOVIDパスの提示を入場者に求めることができる。しかし、あくまでも「任意」であり「お願い」がベースになっている。

実際に劇場に行ってみると拍子抜けした。チケットさえ見せれば入場でき、COVIDパスは不要だったのだ。政府が奨励するCOVIDパスは現時点では強制力がなく、入場を拒否した場合、高額チケットの払い戻しなどの問題が生じる恐れがある。こうした混乱を避けるため劇場側はウェブサイトや電子メールではCOVIDパスの用意を呼びかけながら実際には提示を求めないことにしたのかもしれない。