ウィンブルドンで濃厚接触、10日間の自宅隔離

世界に先駆け、ワクチンの集団予防接種が始まったイギリスで暮らす筆者は2月11日と4月22日の2回、英アストラゼネカ製ワクチンを接種してもらった。接種カードには名前とワクチン名、出荷番号、接種日が2回分、手書きで記入されている。原則無償で医療を受けられるNHS(国民医療サービス)のコンピューターシステムにも同時に入力される。

NHSのコロナワクチン接種カード
筆者撮影
NHSのコロナワクチン接種カード

この接種カードを“免疫パスポート”として使おうという議論は集団予防接種が始まった昨年12月当初からあった。しかしマイケル・ゴーブ内閣府担当相は「どうか先走らないで。今のところ“免疫パスポート”は計画していない」と確実にワクチンを展開することを最優先にする方針を明確にし、先走るメディアに釘をさした。

筆者が実際に接種カードを“免疫パスポート”代わりに使ったのは7月8日、テニスのウィンブルドン選手権女子シングルス準決勝を妻と一緒にセンターコートで観戦した時だ。会場に入る際、マスクを着用し、接種カード(または48時間以内の迅速検査による陰性証明)と身分証明書を係員に提示しなければならなかった。

ウィンブルドン選手権女子シングルス準決勝
筆者撮影
ウィンブルドン選手権女子シングルス準決勝が行われたセンターコート

スマホにNHSの接触追跡アプリを入れておくと感染者と2メートル以内の距離で15分以上接した濃厚接触者には10日間自主隔離するようにとの通知が届く。筆者には観戦翌日の9日、自主隔離の通知が届いた。

接触追跡アプリ画面
接触追跡アプリに届いた自主隔離10日間のアラート(筆者がスクリーンショット)

他者との濃厚接触の機会はセンターコートで観戦した時とフードコーナー近くのベンチに座ってハンバーガーを食べた時の2回しかなかった。屋外で対面して座っていたわけでもない。自宅に置いてあった迅速検査を2回したが、いずれも陰性。自主隔離中の外出は違法なので10日間、妻と2人で自宅にこもったが、何も起きなかった。

こうしたガイドラインはサッカーのUEFA欧州選手権決勝(ユーロ2020、1年延期して開催)にも適用された。ウィンブルドン選手権やユーロ2020の機会を利用して正常化に向けた大規模イベントの実験が行われたのだ。

イギリスではデルタ(インド変異)株による感染拡大で筆者と同じように10日間自主隔離の通知を受け取った人が大量に発生していた。通知がスマホに届くと「ピン!」と音が鳴り、数十万人が自宅待機となり「ピンデミック」と呼ばれる大騒ぎになった。それだけ感染が広がっていた証左なのだが、7月19日には飲食店の屋内営業は着席限定や、屋内の集まりは6人までといった法定のコロナ規制が全面撤廃され、公共交通機関でのマスク着用は自主判断に委ねられるなど正常化に踏み切った。ワクチンの2回接種者については接触追跡アプリによる10日間自主隔離ルールも8月16日に解除された。