出身地を聞かれるのもイヤだった
2021年Jリーグも開幕から2カ月が経過し、いよいよ勝負が本格化しつつある。2024年には長崎市内に新しいホームスタジアムが開業する予定のJ2チーム、V・ファーレン長崎は、「今季こそ1部リーグ昇格を果たす」という目標を掲げて始動した。
そのクラブを率いるのが、Jリーグ唯一の女性経営者である髙田春奈社長(43)。テレビショッピングでおなじみの「ジャパネットたかた(現ジャパネットホールディングス)」創業者・髙田明氏の長女だ。
ジャパネットは2012年からV・ファーレン長崎のメインスポンサーになっていたが、経営危機に陥ったチームを2017年に子会社化。2019年まで髙田明氏がクラブ社長を務めていたが、2020年に春奈氏が社長を引き継いだ。
「10代の頃の私は、父の仕事や知名度と自分を結び付けられることを嫌っていました。髙田明がテレビショッピングで有名になったのは、私が進学で実家を離れた後なんですが、大学時代には『もしかして髙田明さんの娘?』と言われることが増え、嫌でしょうがなかった(苦笑)。『違います』『親戚です』と嘘をついたりもしていました。出身地を聞かれるのもイヤで、聞かれると長崎ではなく『九州です』と答えるなど、他人を装っていました」
プライドよりも大事なことがある
春奈氏は国際基督教大学を卒業後、ソニーに入社。主に人事畑で4年間働いたが、そこで考えが徐々に変わっていった。
「家族は仲がいいので、ジャパネットの組織が大きくなるにつれ採用や育成に苦労しているという話はたまに聞いていました。特に副社長だった母が総務全般を担当していて、大変そうな話を聞くことが多かったんです」。しかし、両親から直接「手伝ってほしい」と言われたことはなかったという。
当時の春奈氏は、ソニーでの人事の仕事にやりがいは感じていたものの、自分はソニーでは何千人もいる社員のうちの1人に過ぎない。本当に助けるべきは誰なのかを自問自答することが増えた。「自分のプライドよりも、今は家族を助けることの方が大事なんじゃないかという気持ちになったんです」。ソニーを辞めてジャパネットの人事を手伝うと伝えたとき、両親には驚かれたという。