英国の教育課程では、エンジニアが同時にデザインの視点を持つことが伝統になっているとダイソンさん。そのことが、ダイソン社のような人員構成を組み立てるうえで有利だという。日本ではエンジニアはデザインに疎く、デザイナーは技術に詳しくない。専門性の分離が、イノベーションを妨げている。
大切なのは、いつまでも現場に居続けること。ダイソン社の組織はフラットで、どんな役職の人も居室はなく、みんなが同じ大部屋で仕事をしている。
「手を動かす」、そのような日常の姿勢が、思わぬセレンディピティ(偶然の幸運)につながる。「エア・マルチプライアー」は、全く別の技術の開発中に、偶然空気を増幅できることを発見したのがきっかけだと聞く。
小手先のデザインで誤魔化そうとするのではなく、まさに技術のど真ん中で勝負する。これこそ、日本企業が本当は得意としていたことではなかったか。グローバル化の中でも、浮足立つことはない。伝統の精神を貫けば、コモディティー化が進んだと思われるような商品分野でも、付加価値を生み出すイノベーションは可能なはずだ。
ダイソンさんが強調していたのは、日本の製造業が置かれている有利な状況。英国ではほとんど消滅してしまった部品などのサプライ・チェーンが、日本ではまだまだ健在なのは大変な「プラス」だとダイソンさんは言う。
実際、従来型の掃除機のモデルに固執する英国企業に拒まれ、実機を売り出せないでいたダイソンさんを助けたのは、日本。日本の会社がライセンス生産を始めたことが、ダイソンの掃除機が世に出るきっかけとなったのである。
日本には、おそらくすべてがある。ないのは、ほんの少しの勇気だけ。技術とデザインを結びつける、地道で生真面目な努力が、日本の製造業を復活させる。
ダイソンさんの職人魂に日本人は共感する。器用に振る舞う必要などないのだ。