8月下旬、東京で興味深い会合が開かれた。ハーバード大学に留学中の日本人学生が主体となって、高校生のための「リベラル・アーツ」(教養)講座が開催されたのである。
日本人の意識が「内向き」になり、外国に留学する人が減ってきている中での画期的な試み。ハーバードの現役学生が20名、ボランティアで来日。自ら応募してきた高校生たちと、数日間にわたって活発な議論を続けた。
私は、会期の前半のパーティーに参加した。高校生たちが、次々と「道場破り」にやってきたが、さすがに意識が高く、話題も高度だった。英語の学習法から、日米関係、量子力学の観測問題、意識の謎、ベーシック・インカム。日本はダメだと取り沙汰されているが、まだまだ元気な若者たちがいると、意を強くしたのである。
中心となって組織したのは、小林亮介君。友人の、ジミーやアレックスを連れてきた。ジミーは、ヴァージニア州出身。そして、アレックスはニューヨーク出身。アレックスに、「なぜコロンビア大学に行かなかったのか?」と聞くと、「コロンビアはハーバードじゃないから」との答え。
小林君自身は政治学、ジミーは神経生物学が専攻なのだという。アレックスは、経済学に興味があるらしい。専門の異なる彼らが活発に議論しているそのありさまは、まさに大学における「リベラル・アーツ」教育の理想そのものであった。
「いつもこんな話をしているの?」と聞くと、「ハウスが一緒だから」と言う。「ハウス?」「同じキュリエ・ハウスだから」「ハウスって、カレッジみたいなもの?」「そうです! ハーバード大学のハウスは、イギリスのオックスフォードやケンブリッジのカレッジを一つのモデルとしてつくられました」
彼らが所属している「キュリエ・ハウス」は、かつてマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏もいたのだという。
「しかし、ビル・ゲイツ氏は中退したね」
「そうです」
「フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏も中退だったし、ハーバード大学生にとって最高のキャリア・パスは、中退するということなのかな?」
「ははは。そうかもしれませんね」
屈託なく、ありとあらゆる話題について、大量の知識と独自の見解を交えて語り合う彼ら。アメリカにおける「エリート」教育の一つのかたちがそこにあった。