※本稿は、小西利行『プレゼン思考』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
「超努力系まぐれ当たり経営者」イーロン・マスクの凄み
そして今、ビジョンの提示力という意味で僕がもっとも興味を持っているのが、イーロン・マスクという人物です。
イーロン・マスクは、皆さんもご存じの電気自動車「テスラ」や、宇宙開発事業の「スペースX」、さらに「ソーラーシティ」などを指揮する超有名経営者ですが、実は、最初の会社創業から今まで、まさにギリギリでなんとか生き延びてきた「超努力系まぐれ当たり経営者」でもあります。
すでに多くの出版物や記事(※)でも取り上げられていますが、イーロンは、事業を興す度に無謀とも思えるビジョンを掲げ、そこに殺人的なハードワークで臨み、自己資金を惜しみなく投入することで圧倒的なリーダーシップを発揮し、常に破産や倒産ギリギリの土壇場で起死回生の逆転満塁ホームランを打ってきた奇跡の人です。
先ほど挙げたような天才的な経営者たちとは違い、まったく今っぽくない、泥臭い仕事をする経営者だとも言えるでしょう。そしてそんな姿にこそ、僕は強く興味を惹かれるのです。
ただ、僕がイーロン・マスクに惹かれる一番の理由は、彼が常に多くの人を巻き込み、そして常に、起死回生の一発を打つ準備をしているからです。そしてそのエンジンこそが、彼の描く「ビジョン」なのです。
※『Elon Musk:Tesla,SpaceX,and the Quest for the Fantastic Future』
未来を見通す力とビジョンをつくる力に驚愕
いまでこそ、トヨタの時価総額を抜くニュースが出るほど有名となった「テスラ」も、彼が参加した当時は、夢のまた夢の事業とこき下ろされて、誰からも相手にされていませんでした。
電気自動車も自動運転も、当時はまだSFの領域を超えておらず、まさかこんなにも一般的に普及し始めると思っていなかったのです。
でも、彼はそれをまるで「すぐそこにある未来」のように語り、そして人を説得して回っています。夢を夢として語らず、必ず実現するものとして語る。そのために血のにじむような努力で開発を行って実証し、徹底的に地道な営業活動で広めていくのです。
ビジョンはカンタンに広まるものではありません。そこに熱量と努力が必要になる。それを教えてくれたのがイーロン・マスクでした。
僕は、これまでに何度も、彼の未来を見通す力とビジョンをつくる力に驚愕してきましたが、その中でも一番なのは、2016年の「マスタープラン・パート2( Master Plan, Part Deux)」というプレゼンテーションでした。なぜなら、その場で彼が「テスラをエネルギー企業にする」というビジョンをぶち上げたからです。