ちなみに後任の鄭沢光駐英大使のツイッターアカウントは今年6月に開設されたばかりでフォロワーは258人にとどまっている。孔鉉佑駐日大使はアカウントすら開設していないものの、駐日中国大使館のフォロワーは8万1900人。日本ではネット世論が中国に厳しく外交官アカウントを使った偽情報パブリック・ディプロマシーは逆効果になる恐れがあるため、有力政治家や官僚、経営者に水面下で近づくアプローチがとられていると筆者はみる。
学生ユーチューバーを高額でリクルートする中国国営メディア
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が今年3月に公表した報告書によると、中国共産党は新疆ウイグル自治区の人権弾圧への国際的批判をかわすため、SNSを通じて偽情報を拡散、中国共産党の前向きな取り組みを宣伝する情報キャンペーンを展開している。20年初めから、中国や中国国営メディアによるアメリカ国内のSNS使用が大幅に増加し、新疆ウイグル自治区に関して中国にとって都合の良いストーリーや偽情報がまき散らされていた。
中国国営メディアがアカウントを開設し、キャンペーンを最も有効に展開していたのはフェイスブックだ。フェイスブックは「利用者のプライバシー」を理由に前出のオックスフォード大学の調査にはあまり協力的ではなかったという。
ASPIの調査では、新疆ウイグル自治区の弾圧問題に取り組むウイグル族の犠牲者、ジャーナリスト、研究者と属する組織を批判・中傷する戦術が使われていた。中国政府当局者と中国国営メディアは権威主義体制への共感を示す零細メディアと陰謀家のウェブサイトが作成した偽情報を含むコンテンツを拡散させていた。
世界保健機関(WHO)や国連など国際機関の当局者もそうしたコンテンツをシェアする役割を担っており、西側のメディアエコシステムに偽情報が浸透していた。中国共産党と関係する新疆オーディオ=ビデオ出版社は中国の政策を支持するビデオをつくるマーケティング会社に資金を提供。ビデオは偽アカウント・ネットワークを通じてツイッターやユーチューブに拡散、増幅されていた。
一方、英紙タイムズは、中国共産党に編集管理されているとして放送免許を取り消された中国国営テレビCGTNが英大学のキャンパスを舞台に1万ドル(約110万円)で学生Vloggerをリクルートしていると報じている。トータルで2900万人に視聴されたユーチューバーもいた。「CGTNに参加して」という宣伝ビデオや、「西側メディアのウソ」を非難したり、中国の収容所で人権侵害が発生することを否定したりする動画をつくっているという。