中国政府は、配信動画で商品を売る「ライバー」を職業として公認している。それだけでなくライバーやインフルエンサーの養成に力を入れており、一部の公立大学には「起業学部ライバー養成学科」も出現した。フリージャーナリストの姫田小夏さんは「背景には、労働意欲をなくした『横たわり族』と呼ばれる若者を何とかしたい中国政府の焦りがある」と指摘する――。
化粧品を紹介するライブストリーミングを撮影中の女性
写真=iStock.com/bunditinay
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大学の「インフルエンサー養成所」が人気に

昨今の中国では、猫も杓子も「直播帯貨」(ネット生中継による実演販売、ライブコマース)にはまっている。かつて、日本でも週末の大型店舗に行けば実演販売に黒山の人だかりができていたが、「ネット上で商品説明をストリーミング(生中継)して売る」という現代の販売手法は、コロナ禍の巣ごもり消費で瞬く間に広まった。

中国の調査会社によれば、2020年、ライブコマースの市場規模はおよそ9610億元(約16兆3000億円)に急成長したという。その中国で“直播销售員(ライバー)”が中国で正式な職業として認可され、これを専門に学ぶ高等教育機関まで出始めている。

2019年12月、浙江省義烏市の義烏工商職業技術学院で「ライブコマース科」が立ち上がり、受験生(とその親)から高い注目を集めている。人文観光学部、機械電機情報学部、外国貿易学部、起業学部など10の学部と31の専門学科が設置されている公立大学であり、およそ9600人が学んでいる。

かつて技術を学ぶ高等教育機関といえば、専門学校に近い位置づけだったが、同大学は中国の教育再編を経て普通大学と同じ扱いとなった。ライブコマース科は同学院の「起業学部」の中に設置されている。

動画作成、大衆ウケの話術、実演販売の練習…

「ライブコマース学科」では、商品の選び方、企画の立て方、実際の運営、顧客サービス、そして消費者を購買に促すためのマーケティング心理学も学ぶ。シナリオやコピーライティングの書き方、動画作成もカリキュラムに入れ、大衆ウケする表現やそれにふさわしい口頭話術を叩きこむ。製品の紹介方法のみならず、市場分析や法律法規も学び、前期は理論、後期は実践に集中し、プロのライバーを育成している。

企業とのコラボも進めている。「ライブコマース科」はアリババ・グループの淘宝網(タオバオ)と協力して「タオバオ・ライブコマーススタジオ」を設立した。商品を売りたい企業を集め、授業の一環として学生に販売させるという実践機会の提供である。

中国の「南方都市報」は、授業の様子を次のように描写している。