謝さん一家は生活も恵まれていて、中国国内にも東京都内にも投資物件を持っている。どのみち食べるには困らない謝さんは「両親からは無理して働かなくてもいい」と言われている。
中国では、競争に疲れ、仕事に対しても高い意欲を持たず、現状維持でよしとする“躺平族(横たわり族)”という言葉がさかんに取り上げられるようになったが、確かに謝さんも「理想の仕事がなければ最終的には“躺平”でいい」と思っている。かつて世界が賞賛した「ハングリーな中国人材」の姿はない。
エリート大学にも「就職離れ」の波が
北京の中国伝媒大学は、「2020年度卒業生就業の質の報告」(以下、リポート)を公表した。同大学は放送、メディア分野における中国最高峰の大学で、大手新聞社や放送局などに卒業生を送り込んできた。国家事業を支える人材を大量に輩出してきたその歴史にもかかわらず、リポートが明らかにするのは、「同大学における2020年度の卒業生は2割が仕事に就いていない」という実態だ。
リポートによると、2020年度に同大学を卒業したのは3752人で、このうち留学、修士、博士課程への進学者905人(約24%)を除くと、就業した者は2104人(約56%)、未就業の者は743人(約20%)だという。
未就業者743人のうち、約46%が「留学や修士、博士課程への進学を“計画中”(筆者注:何らかの理由で年度内に進学できなかった可能性がある)」だとしており、「働く意欲はあるが仕事が見つからない」と回答した学生は約49%に上っている。
どうせ働くならフリーランサーがいい
一方、就業した者は2104人いるが、このうち企業と雇用契約を交わした者は956人と半数以下にとどまる。同時に目を引くのが、フリーランサーを選択した者が496人(13%)もいるということだ。
同大学を卒業すれば、有名企業で花形職業に就くのも夢ではない。だが、リポートから見て取れるのは明らかな「就職離れ」であり、「仕事をするならフリーランサーの道を歩む」という傾向だ。
ちなみに、2020年6月29日、中国教育部(日本の文部科学省に相当)は、大学から報告される就職先データを精査すると通達した。就職実績を上げたい大学が、雇用先と虚偽の契約を交わしたり、雇用証明書を改ざんしたりするなどして、教育部に報告していたためだ。
教育部は大学に対し、「卒業生に雇用契約や労働契約へのサインを強制してはならない」とも警告している。こうした通達からも「大学生の就職離れ」が国家的な重大問題となっていることが伺える。