人気のお仕事小説最新作『わたし、定時で帰ります。 ライジング』では、33歳の会社員・結衣が、残業が発生しがちなデジタル企業で労働環境改善のため会社に働きかけることに。最新の会社事情を取材してリアルに描き出した作者の朱野帰子さんに、企業で働く女性たちが抱えている問題について聞いた――。

男性は“普通の人”でも昇進を目指す

――結衣は入社10年目でマネージャー代理になりましたが、現実では管理職になるのをためらう女性が多いです。

作家 朱野帰子さん
作家 朱野帰子さん(撮影=新潮社)

【朱野帰子さん(以下、朱野)】女性は自己評価が低く、「自分は管理職になれない」と思い込んでいる人が多いと思います。男性は「出世しなきゃいけない」という社会的な圧があり、本人もそう思っているので、普通の人でも昇進を目指して頑張りますが、女性だと飛び抜けて優秀な人しか管理職になれないというイメージがある。

TVドラマでも女性の課長、部長はスーパーウーマンで、部下の男性とも同期とも上司とも戦っていたりする。そういうメッセージを日々受け取っているので、「私なんか、そんなことできない」となってしまう。今回の「ライジング」というタイトルには「出世する」という意味を込めていて、結衣のような普通の女性が出世する様を描くことで、ハードルを低くしたいと思いました。

――結衣と晃太郎のように管理職同士のカップルだと互いに忙しくてすれ違ってしまう。それが嫌だからならないと考える女性もいます。

【朱野】これまでは長時間労働が当たり前で、男性でもきつくて過労で倒れたりする。そういう労働環境に女性が入ればやはり倒れます。専業主婦のサポートありきでそういうハードな働き方が組まれているので、共働きカップルが家事育児をしながら働くのは難しい。労働環境の改善がないまま「出世しなさい」と言われている現状は今の若い人たちには無理があるんじゃないかなと思います。

それに、ひと昔前より管理職の仕事が増えていませんか。昔は部下の持ってきた書類にハンコを押せばいいぐらいのゆるさがあったけれど、細かな部下のマネジメントも働き方改革もとタスクが多くて、その状況で出世しなさいと言われるのは、男性でもきついと思います。