補助金でバッテリーの生産を後押しするEU

欧州でバッテリーの生産が堅調に増加している。欧州連合統計局(ユーロスタット)が公表するEU27カ国の鉱工業生産指数の内訳よりバッテリーの生産を確認すると、最新3月は前月比1.4%減と20年4月以来の減少を記録したが、ならした動きは堅調な増加トレンドを維持しており、コロナ前の倍以上の高水準をキープしている(図表1)。

バッテリー生産が堅調を維持している背景には、EUで急速に進むEV(電気自動車)シフトの流れがある。気候変動対策を重視するEUは、その具体的な戦術の核にEVの普及を据えた。汎用性が高いバッテリーであるが、特にEVには不可欠なパーツである。

こうした需要面の要因だけではなく、EUによる支援策がバッテリー生産の急増につながっている。EUは今年1月、EU加盟12カ国によるバッテリー生産関連企業42社に対して最大29億ユーロ(約4000億円)の補助金の交付を許可した。これは2019年12月に7カ国12社に対して実施された同様の支援の延長線にある。

EUでバッテリー生産の協力体制を構築しようという流れは、2017年10月にスロヴァキア出身のマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員会副委員長(エネルギー同盟担当)の提唱で設立されたイニシアチブである「欧州バッテリー同盟(EBA)」にその源流を求めることができる。バッテリーの生産支援には文字通りEUの野心が反映されている。

産業政策を変えた「覇権争い敗北への危機感」

1993年に成立したEUは、基本的に域内での自由な競争を重視する産業政策を採用してきた。EUの憲法に当たる機能条約でも、産業に対する補助金の支給には非常に厳格な規定が設けられている。2010年代前半に生じた欧州債務危機の際も、EUは銀行への公的資金注入をできるだけ回避しようとしたが、背景にはそうした思想があった。