「両利き経営」の代表例としてのリクルート

創業経営者がいてもやはり愛着があるのは自分たちが最初に成功させた祖業ですからそういうバイアスがかかる。もしあるべき「両利き経営」ができていたら、どちらも産業再生機構案件にはなっていません。

本当にグローバルで戦える会社を目指すなら、新卒一括採用生え抜きの同じ人材で回すより、経営層はもちろん、多くの人材が周期的に入れ替わりながら、その時々の状況に合わせて最適メンバーで戦えるようにすべきです。

【田原】冨山さんのいうことはよくわかるけど、もうちょっと実例がほしい。そんなモデルでうまくやってきた日本企業はあるのかな。

【冨山】やはり代表例はリクルートでしょうね。創業者の江副浩正えぞえひろまささんは光と影がある人ですが、彼の光の部分に関して言えば、日本的経営モデルというのをほぼまったく採用しないで、リクルートという会社をつくった偉大な起業家です。

【田原】終身雇用を採用しなかった。

【冨山】そうです、ほとんどの社員は40歳までに辞めています。別に解雇するんじゃないけど、昔は30歳まで、いまだと40歳までに独立できない社員はダメだという風潮が社内にある。だからリクルートからは様々な起業家が生まれています。

【田原】僕も江副は面白いと思っていて、ずっと付き合ってきた。彼が面白いのは、学生時代、2020年に100周年を迎えた東京大学新聞(東大の学生新聞)の広告担当だったことにある。

採用広告を企業に出させるというアイデアを発明して広告をかき集めて、だいぶもうけた。その資金をもとに起業したリクルートも、最初は出版・広告業だった。

【冨山】出版業として出発しながら、紙の出版がダメだとなると、あっという間に跡形もなくやめちゃうんです。気がついたら全部ネットベースに変わっていました。出版業のなかで、あれだけのデジタルシフトを短期間でやったのは、リクルートだけでしょう。

人材を囲わず“リクルート出身者”のエコシステムを作る

とにかく変わり身が早い。既存の事業をやめる勇気もすごいんですが、創業時の事業にこだわらずに、新しい事業をどんどん立ち上げているところがすごいんです。アントレプレナーシップが社員レベルにまで共有されて、現在まで続いている。こんな会社は日本だとリクルートくらいだと思います。

【田原】新しい事業をどんどん作るんだね。

【冨山】結局リクルートにおいて評価されるのは、儲かる事業を新しく作ることなんです。儲かる事業を新しく作ることが評価されるし、作った事業は、独立して続けてもらってもかまわない。だから社員はどんどんチャレンジする。

ベンチャーのタネを徹底的に探していくというモデルをつくり、長期に循環させていくというモデルは日本的経営とは相反するものです。そして、リクルートが持っている事業ポートフォリオはガンガン入れ替えていく。さらに日本的経営と真逆で、人材も囲わない。

だから、どんどん元リクルートだらけの世の中になって、会社員をやめて独立しましたというベンチャー企業の経営者に会うと、半分くらいはリクルートという状況になります。

彼らがリクルートの大きな意味でのエコシステムの中で、恩返しをしてくれるので、リクルート本体のブランド価値はどんどん上がり、それがビジネスにも好影響を与えて、リクルート自体がさらに発展して、そうなるとまた変な若者が集まってきて、おもしろいビジネスを立ち上げて……と循環するんですね。

何をやっているか分からない、何をこれからやるか分からない会社だから魅力的なんです。