なぜトヨタは成長しつづけているのか。経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏は「トヨタはデジタル化の影響をほとんど受けていないため、GAFAに利益を奪われなかった。日本的な徹底した現場主義を貫いたことで、効率的な経営戦略を生み出していったことがトヨタの強みだ」という――。(第4回/全5回)

※本稿は、冨山和彦、田原総一朗『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(角川新書)の一部を再編集したものです。

トヨタ自動車
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インターネットの衝撃に強かった自動車産業

【田原】今、トヨタの話が出た。僕もトヨタは何度か取材にいったことがあるし、歴代の社長にも会ってきた。30年前と今で、日本企業の中でずっと世界で通用しているのはトヨタだけだ。どうしてトヨタは生き残れたのか。冨山さんの分析を聞いてみたい。

【冨山】まず、自動車産業が今までのところデジタル革命の影響を受けていないことが挙げられます。先ほども例を出したように、AIによる自動運転もあるし、電気自動車も走っています。けれども、インターネットの衝撃をパナソニックやソニーほどは受けていません。工場を各地に作り、世界中に生産拠点があり、現地社員がいる。

GAFAの中で、トヨタのような自動車メーカーはないですよね。流通もそうです。アマゾンや楽天で買い物をしたりウーバーイーツで出前を取ったりしたことがある人は日本ではもはや多数派だといえるでしょうが、インターネットで車を取り寄せたという人はきわめて珍しい存在にすぎません。

そして自動車そのものが人の生き死ににかかわる道具であることも大きな理由です。1トン近い鉄の塊が時速100キロを超えるスピードで安全に走行する、それも何10万キロも走行できる耐久性を持って。これは尋常なことではありません。

機械的に非常に複雑かつ高度で強靱きょうじんな工業製品です。こんな人命に関わる危険な道具を作るということが高い参入障壁になっている。スマホが壊れても人命に直結しませんし、サービスが使えないからといって命を落とす人もいませんよね。しかし、自動車は故障や誤作動、使えないときに命に直結するシリアスな道具です。