利益は生んでも雇用は生んでいないGAFA

大企業はとにかく多くの社員を抱え、それによって大量生産で富を生み出し、社員を雇用する。安定した雇用は、豊かな中産階級を生み出し、それがアメリカ民主主義の繁栄の中核になる。自動車もコンピュータも製造業も、すべての中心がアメリカにありました。

日本も同じで、かつてのグローバル大企業というのは、直接的であれ間接的であれ多くの雇用を生み出し、社員を養っていたんです。ですがGAFAをみてください。彼らはどんな人間を雇っていますか。

【田原】GAFAが雇っているのは、高学歴のエリートたちだ。

シリコンバレー
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【冨山】そうです。だからGAFAはデジタル時代、知識集約産業時代の最も成功した企業群で、もっとも時価総額が高い企業群ではありますが、30年前に時価総額トップ10が生んでいた雇用の数、しかも良質な雇用の数を生み出していません。一部のトップエリートが富を分け合っていて、それはデジタル革命の必然なんです。

【田原】そうか、そこが違う。30年前のトップ企業は、多くの雇用を生んでいた。

【冨山】自社やグループ会社だけではなく、下請けの自動車工場などでも大量の人を雇っていました。アメリカではそうした人々が、いわば穏健な中産階級になっていき、時々共和党に入れて、問題があれば時々民主党に入れるような層となっていったんです。それが今は深刻な格差社会になっています。

GAFAが日本で言う正社員的に雇っている人たちは、スタンフォード大学やMITを卒業し、しかも博士号は当たり前というような、超がつくもの凄いインテリが中心です。あれだけの時価総額なのに数万人しか雇用がない。世界で戦っている自動車産業のトヨタが生み出している雇用にはまったく及ばないでしょう。

中産階級の雇用を生む産業を育てるべき

そしてかつて米国の中産階級雇用を生み出した製造業系の現場はグローバル化で新興国に流出してしまった。何せ人件費が何10分の1ですからいかんともしようがない。対抗しようとしたら大幅に賃金を下げるか、猛烈な自動化しかないので、結局、良質な雇用は生まれません。

今のトップにいるグローバルIT企業は製造業に比べて、まったく雇用を生み出しませんし、雇用を必要としないモデルなんです。このことこそ本当に考えるべきことで、日本は遅れている、日本からもGAFAのような企業を生み出さなくては経済の復活はないと主張する人が時々います。

でも今からこの領域に追いつくのはものすごく大変というかほぼ無理で、しかも実現したところで日本社会に大きな雇用は生まれません。グローバルな競争をやりたいという人がいることはもちろん大切なんですが、それで潤うのはトップクラスの人材だけです。

日本においてもマジョリティにとって大事な中産階級の雇用をどこで生むか、そうした産業をどう育てるかを考えないといけないんです。グローバル化とデジタル化が、先進国の中産階級雇用を猛烈な勢いで奪ってきたことはまぎれもない事実です。実際に、ソニーもパナソニックも失われた雇用がある。デジタル化の打撃が比較的少ない自動車産業は、今はまだ特別な領域なんです。