うまく丸めこまれて「私が悪い」ということになってしまったけれど、やっぱり本当にまちがっているのは私ではない気がする。私のことを思って言ってくれたのだとは思うけれど、ありがたいというよりはむしろ傷つく……。社会学者の森山至貴さんが、大人が言いがちな「ずるい言葉」を分析。どう反論していいかわからずモヤモヤする人たちに向けて、対抗するためのヒントを伝授します——。
※本稿は、森山至貴『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。
娘「高校に入学したらダンス部に入りたい」
母「ダメ。ケガでもしたら大変だし、そもそも大学受験に向けて勉強しなきゃいけないんだから、部活動なんかやってる暇はない」
娘「勉強だけがすべてじゃないって昔は言ってたのに、ずるい」
母「とにかくダメなものはダメ。あなたのためを思って言っているんだよ」
母「ダメ。ケガでもしたら大変だし、そもそも大学受験に向けて勉強しなきゃいけないんだから、部活動なんかやってる暇はない」
娘「勉強だけがすべてじゃないって昔は言ってたのに、ずるい」
母「とにかくダメなものはダメ。あなたのためを思って言っているんだよ」
心変わりは悪いこと?
自分のやりたいことをなんでもできるわけではないことくらい知っています。でも、そんな言葉であきらめさせられたくないと思うとき、やっぱりありますよね。特にこの、「あなたのためを思って言っているんだよ」という言葉。こんなことを言う大人って、ずるくないですか?
ではどう「ずるい」のか、少し丁寧に考えてみましょう。
このシーンには、「あなたのためを思って言っているんだよ」以外にも気になる部分があるので、そちらを先に考えておきます。
そう、「昔は言ってたのに」です。たしかに、言っていることが以前といまとで異なるというのでは、納得なんかできません。「勉強だけがすべてじゃない」とさんざん言っていた人が「勉強だけしろ」と言うなんて、全然一貫していません。そういうところが「ずるい」、と言えるのはないでしょうか。
とはいえ、一度口に出した主張は二度と変えてはいけない、わけではありません。人は変わるし、変わってよいのです。大事なのは、どう変わったのか、なぜ変わったのかを必要に応じてきちんと説明することです。だから、おそらくこのシーンでよくないのは、心変わりを指摘された側が「とにかく」という何の説明にもならない言葉で対話を遮ってしまったことにあるはずです。この「とにかく」のよくなさについてはあとで取り上げることにしましょう。