徴用工訴訟や慰安婦問題の具体的な解決策には全く触れず

3月1日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、日本の植民地支配に抵抗した1919年の「3・1独立運動」を記念する式典で演説した。

ソウルで開かれた「3・1独立運動」記念式典で演説する韓国の文在寅大統領(韓国・ソウル)=2021年3月1日
写真=EPA/時事通信フォト
ソウルで開かれた「3・1独立運動」記念式典で演説する韓国の文在寅大統領(韓国・ソウル)=2021年3月1日

文在寅氏は今年1月の新年記者会見で、徴用工訴訟について「日本企業の資産が強制執行で現金化されるのは韓国と日本にとって好ましくない」と現金化回避の意向を示し、慰安婦問題についても「日韓合意を公式的なものだったと認める」との考えを述べていた。

いずれもこれまでの姿勢や態度を変えるもので、記念式典での演説が注目されていた。しかし、日韓関係の改善を抽象的に語るだけで、徴用工訴訟や慰安婦問題の具体的な解決策には全く触れなかった。

態度を変えた文在寅氏の腹中には、間違いなくいくつもの打算がある。1月23日付の記事「『日本の資産売却は避けたい』突然態度を翻した文在寅大統領の本当の狙い」でも触れたが、あらためて考えてみたい。

「韓国は対話に応じるから日本もその意思を示せ」は失礼だ

3月1日の演説内容を具体的に見てみよう。文在寅氏は「韓国と日本の唯一の障害は、過去と未来の問題を切り離せず、未来の発展に支障が出ることだ」と指摘したうえで、「過去の過ちから教訓を得ることは、国際社会で尊重される道だ。韓国政府は日本政府と向かい合い、対話をする準備ができている」と日本に対し、関係改善を呼びかけた。

韓国は対話に応じるから日本もその意思を示せ、と求めているのだ。実に失礼な言い方である。徴用工訴訟では解決に向けた行動を何ら起こさず、慰安婦問題では「最終的かつ不可逆的な解決」を約束した日韓合意(2015年)を否定した。

過去と未来の問題を切り離していないのは、いまの韓国政府だ。文在寅氏は日本に対話を呼びかけるのであれば、まずは徴用工訴訟と慰安婦問題での無礼を詫びるべきだろう。