文在寅氏の大統領任期は来年5月で切れる

しかも文在寅氏は「韓国は被害者中心主義の立場で、解決策を模索していく」とも語った。徴用工訴訟の原告や元慰安婦らの機嫌を取ろうとしている。文在寅氏の大統領任期は来年5月で切れる。それまでに低迷した支持率を元に戻して支持層を固め、そのうえで大統領選に臨み、新たな次期大統領を自分の与党から出し、進歩派(左派)政権を継続したいのだ。これが態度を変えた理由、腹中の打算の1つである。

こんな打算を抱くようでは、日韓関係の改善などほど遠い。新年の記者会見で「日韓合意を公式的なもの」と明言したのだから、2015年の日韓合意を反故にした理由を明確に示すとともに、日本政府に謝罪すべきである。文在寅氏は国家間の約束というものをどう考えているのか。

加藤勝信官房長官は3月1日の記者会見で「重要なことは懸案解決のため韓国が責任を持って具体的に対応していくことだ」と話し、韓国に解決策を提示するよう求めた。日本が納得できる解決策を、まず韓国側が示す。これが道理である。日韓関係をこじらせたのは、文在寅政権だからだ。

南北改善のために東京五輪を利用するつもりだ

3月1日の演説で文在寅氏は東京五輪にも触れ、「オリンピックは韓日、南北、日朝、朝米の絶好の対話の機会になる。成功させるために協力する」と述べた。

南北関係の改善を政権の重要課題と考えている文在寅氏は、東京五輪に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記(今年1月の党大会で委員長から総書記に格上げ)を招き、アメリカと北朝鮮の対話の舞台にしようと画策している。実際、文在寅氏は開会式に各国の首脳クラスの人物を集めて朝鮮半島問題を話し合ったり、北朝鮮の核・ミサイル開発や日本人拉致の問題について議論したりする会議の開催を日本など関係各国に水面下で求めている。

朝鮮半島の南北改善のために東京五輪を利用する。これが文在寅氏の2つ目の打算である。今回の演説では「対話の機会」との表現にとどめたが、今後、文在寅氏は徴用工訴訟と慰安婦問題を解決する代わりに、東京五輪を米朝対話や南北改善の舞台に使うことを日本に求めてくるはずだ。だが、オリンピックに政治的打算を持ち込むことは許されない。

そもそも沙鴎一歩がこれまでも主張してきたように、国際社会に反旗を翻し、日本を侮辱する北朝鮮の金正恩氏を、東京五輪に招待するべきではない。