家族のために「なにかできたらいいな」と思っていたけど、よもや「自分の本業でそんなことができるとは思ってもいなかった」と。今でもスタッフとエレベーターで乗り合わせたときなどに、「障害のある方でも買いやすいウェブサイトもつくりませんか?」といった追加提案をされることもあるそうです。

本当に、福祉業界からするとめちゃくちゃ心強かった。

マイノリティの世界に、ある意味マジョリティな力が掛け合わさることが、こんなにも希望になるなんて。リーディングカンパニーが持つ包容力が、こんなにもカッコよくて大きいものだなんて。ふたつの世界に橋が架かった。ここに橋を架かけられるなんて、思ってもいなかった。

これからもこうやって、あらゆる業界で「マイノリティデザイン」を進めていきたい。そう思わせてくれたプロジェクトでした。

「より良い働き方」のために定めた3つの方向性

「切断ヴィーナス」「NIN_NIN」「041」とプロジェクトを進めるにつれ、そこに関わるクリエイター自身の飢えや、悩みや葛藤とも向き合うことになりました。

澤田智洋『マイノリティデザイン 弱さを生かせる社会をつくろう』(ライツ社)
澤田智洋『マイノリティデザイン 弱さを生かせる社会をつくろう』(ライツ社)

そして、こう思ったんです。

僕らは、自分のアイデアで「より良い社会をつくる」以前に、そのアイデアを生むための「より良い働き方」をつくらなければいけない、と。

自分の時間を、人生を、経験を「その才能を費やす使い道はそれでいいんですか?」ともう一度、自分に問いかけ、時間を割いて、僕は自分の働き方を3つの方向性にまで絞りました。

①広告(本業)で得た力を、広告(本業)以外に生かす
②マス(だれか)ではなく、ひとり(あなた)のために
③使い捨てのファストアイデアではなく、持続可能なアイデアへ

今、僕のすべての仕事は、この3つの方向性に沿っています。逆に言うと、それ以外の仕事はお断りしています。20代の頃は、仕事を断るのが怖かった。嫌われるんじゃないか、生意気だと思われるんじゃないか、仕事が減るんじゃないか。

でも、断る。

自分で自分の仕事を編集していかないと、芯を食った働き方はできない。だから、勇気を持ってこの3つのディレクションに絞りました。

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