テレワークの浸透で運動不足に陥り、腰の痛みを訴える人が激増している。慢性腰痛、ぎっくり腰……体をどちらに向けても「しんどい」この状態をどうすれば脱却できるのか。自身、長年腰痛に悩み、克服した経験を持つ池谷敏郎医師が、困った腰痛の原因の突き止め方とともに、その腰の痛みに隠された重篤な病気の見抜き方を教示する──。(第2回/全3回)
※本稿は、池谷敏郎『腰痛難民』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
「なんとなく腰が痛い」からはじまった「腎臓病」
パートの仕事と家事、親の介護などで慢性的な疲労と腰痛に悩まされていた60代女性Cさん。忙しい日々のなかで、なかなか自分の時間をもつことができず、整形外科や整体などに定期的に通う時間はもてなかったので、マッサージ器や湿布でなんとか対応していたそうです。
また、腰痛以外にも、睡眠中に寝間着や布団が濡れるほどの寝汗をかいたり、ふだんから微熱を感じたりしていたものの、「きっと疲れのせいだろう」と、とくに病気を疑うことなく、そのままにしていました。
ところが、そのうちに食欲もなくなってきて体重も減り、腰痛と倦怠感もひどくなってきたとのことで、私のクリニックを受診されました。
精査加療が必要と考え、すみやかに総合病院の内科へご紹介したところ、最終的に下された診断は「慢性腎盂腎炎」でした。
風邪や疲労に間違われる「腎盂腎炎」
腎盂腎炎という病名は、はじめて聞く方も多いかもしれません。腎盂腎炎とは、腎臓内の尿のたまるところである「腎盂」という部分に細菌が繁殖して炎症が生じる病気です。
腎臓でつくられた尿は、「尿管」を通って膀胱へと流れ込みます。腎盂は、腎臓内でつくられた尿を集め、一時的にためておくとともに、尿管を介して膀胱へ送り出す役割を担っています。
本来、健康な人は、膀胱から尿管、腎盂には多くの細菌は存在しません。では、なぜ、腎盂腎炎では腎盂に細菌が繁殖して炎症が起きてしまうのでしょう。
多いのは、尿の出口から侵入した細菌が尿の通り道を遡って腎盂にまで到達してしまうパターンです。ただ、稀に、体内の別の場所で感染が起こり、それが血管を通って腎臓にまで届くこともあります。