テレワークの浸透で運動不足に陥り、腰の痛みを訴える人が激増している。慢性腰痛、ぎっくり腰……体をどちらに向けても「しんどい」この状態をどうすれば脱却できるのか。自身、長年腰痛に悩み、克服した経験を持つ池谷敏郎医師が、困った腰痛の原因の突き止め方とともに、その腰の痛みに隠された重篤な病気の見抜き方を教示する──。(第1回/全3回)

※本稿は、池谷敏郎『腰痛難民』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

いつまでも痛みが引かない「ぎっくり腰」

70代の男性Aさんは、もともと高血圧の持病があり、薬を飲んで治療を続けていました。Aさんが、当時私が勤めていた地域の総合病院の救急外来にいらしたきっかけは、急な腰痛でした。

その1週間前に、急に腰が痛くなったのです。その時には「あ、ぎっくり腰になっちゃったな」と自己判断し、家族に湿布を買ってきてもらって、自宅で安静にしながら様子を見ていました。

ぎっくり腰は、正式には「急性腰痛症」といいます。経験された方はわかると思いますが、最初こそピーンと強い痛みが走り、体を動かすこともままならないような状態になりますが、数日経てば痛みは和らいでいきます。

ところが、Aさんの場合、数日経っても痛みは軽くならず、むしろ増していったのです

腰に手を当てる女性
写真=iStock.com/elenaleonova
※写真はイメージです

実は「腹部大動脈瘤破裂」で緊急手術に…

やがては腰だけではなくお腹も痛くなり、さらには倦怠けんたい感もひどくなってきました。Aさんもさすがに「なんだかおかしい」と考え、救急外来を受診されたのです。

救急外来で腹部エコー検査や腹部CT検査などを行なったところ、「腹部大動脈りゅう破裂」と診断され、緊急手術となりました。Aさんの急な腰痛は、ぎっくり腰ではなく、破裂しかけた大動脈瘤の痛みだったのです。

大動脈瘤は、心臓から送り出された血液を運ぶ大事な血管である大動脈がこぶのように病的にふくらんだ状態のこと。高血圧や動脈硬化などによって大動脈の壁がもろくなっていると、内圧に耐えられなくなって膨らんでしまうのです。

胸部の大動脈にこぶができたものを「胸部大動脈瘤」、腹部の大動脈にこぶができたものを「腹部大動脈瘤」と呼びます。Aさんの場合は、後者の腹部大動脈瘤でした。

大動脈瘤が進行すると、こぶが大きくなり、やがては破裂してしまいます。破裂すると大出血を起こして、命にかかわります。

残念ながら、大動脈瘤破裂を引き起こすと、その致死率は8~9割と非常に高く、病院に着く前に亡くなってしまう方、病院にはたどり着けたものの手術を行なう前に命が尽きてしまう方も多いのです。