大動脈瘤の患者さんの9割が腰痛

Aさんの場合は、救急外来に来る1週間前、急に腰痛が出た時に、腹部大動脈瘤が破れかかっていたのでしょう。それで、急に痛みが出たのです。

腹部大動脈は、背骨の前を走っています。そのため、大動脈瘤が後ろにある背骨に向かって膨らむ場合には腰痛を生じやすくなります。

大動脈瘤の患者さんで、はじめての自覚症状が腰痛である方は全体の3割程度ですが、最終的に腰痛を感じるケースは全体の9割にも及ぶとの研究結果も出ています。ですから、腰痛の原因を考える際には、大動脈瘤を疑うことが大切です。

急な痛み…「腰以外に原因はないか?」

また、大動脈瘤破裂と同じように命にかかわる血管事故に、「大動脈解離かいりがあります。大動脈の壁は、内側から内膜、中膜、外膜という3層構造になっています。このうち、いちばん内側の内膜の一部から亀裂が入り、メリメリッと血管の壁が内膜側と外膜側に2つに裂けてしまうのが、大動脈解離です。

裂けた部分に血液が入り込むと、裂け目が広がっていくため、大動脈解離を起こすと、痛む部分が移動することがあります。

急に腰痛が生じた時に、腰をひねったとか、くしゃみをしたとか、重いものを中腰で持ち上げたとか、ぎっくり腰になりそうな動作をしたのなら、まずぎっくり腰を疑っていいと思いますが、そんな覚えもなく急に腰が痛くなった時には、「腰以外に原因がないか」を考える必要があります。

トイレットペーパーを手に持った男
写真=iStock.com/nito100
※写真はイメージです

とくに次のような急に血圧を上げやすい行動をとった時には要注意です。

・トイレでいきんだ
・冬の寒い日に暖かい部屋から寒い場所に移動した
・冬の寒い脱衣所で衣服を脱いで、熱いお風呂に入った
・朝、慌てて飛び起きた

大して姿勢も変えていないのに、こうした行動をとったあとで腰が痛くなった時には、大動脈瘤破裂や大動脈解離、心筋梗塞しんきんこうそくといった重大な「血管事故」が起きている可能性があります。