コピーライターの澤田智洋さんの子供は、生後まもなく先天性の視覚障害のため目が見えないことが発覚した。深い絶望に襲われ、仕事も手につかなくなったが、ある気付きを得て、「見えない。そんだけ。」という画期的なコピーを書けるようになった。澤田さんを絶望から救ったものは、なんだったのか——。

※本稿は、澤田智洋『マイノリティデザイン 弱さを生かせる社会をつくろう』(ライツ社)の一部を再編集したものです。

ブラインドサッカー
写真提供=日本ブラインドサッカー協会
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生後3カ月の息子の目に異変が

それは、まったく想定していなかったことでした。

2013年1月、僕ら夫婦に第一子が誕生しました。元気な男の子です。でも、3カ月ほど経った頃、彼の目が充血してきました。妻は「念のためお医者さんに診てもらおう」と、近くの眼科へ息子を連れていきました。

すると、眼科の先生は深刻そうな顔で、こう告げたと言うんです。

「異常があるんですが、ここでは手に負えません。改めて大きな病院で診てもらってください」。その日、仕事を中断して、家に飛んで帰りました。息子の様子はいつもと変わりません。でも、風景は一変してしまいました。

恐るおそる「目 充血」「目 障害」と検索してみると、今まで自分がまったく知らなかった目の病気の世界が広がっていました。眼球摘出をするような事例も出てきて、ショッキングな検索結果に頭がクラクラしました。昨日まで、ごく普通の生活だったのに、これからいったい息子はどうなるんだろう? 翌日、都内でもっとも大きい小児病院へ連れていくと、病名が明らかになりました。

終わった、と思った

息子の左目は「網膜異形成」、右目は「網膜ひだ」という先天性の障害。緑内障と白内障も併発していました。つまり、息子の目は見えないことがわかったんです。

緑内障と白内障が進行すると、めまいや吐き気といった症状が出る可能性があるため、手術をすることになりました。生後半年にも満たない体で5月に一度、7月にもう一度。

命に別状はないものの、目が見えるようになることはないであろうという現実を、受け入れざるを得ませんでした。

終わった、と思いました。

その日から、仕事が手につかなくなりました。

当時、担当していたのは僕が得意とする「ちょっと笑える」仕事。ユーモアを考えるのが大好きだったし、得意だったから、僕はそんな、(誤解を恐れずに言えば)くだらないことばかり考えて、それを仕事にしていたわけです。でも……まったくギャグが思いつかない。全然コピーが書けない。企画が浮かばない。

たとえばチョコのCM。チョコが大好きな千代子(ちよこ)という女の子が主人公で。チョコを食べすぎて学校に遅れてしまい「千代子、レイト(遅れる)」とダジャレで誤魔化してその場をしのいで……いやダメだ、全然おもしろくない。

頭の中はすべて絶望に占められ、僕はもはやそれまでと同じように仕事をすることができなくなりました。