100を101にするより、1を50にするおもしろさ

コピーライターとして、CMプランナーとして、さまざまな企業のお手伝いをしてきました。そのほとんどがいわゆる大企業です。

お金をたくさん使えるところは、やはり強い。2000年代前半、スペインのサッカーチーム「レアル・マドリード」は、莫大な資金力で銀河系軍団と呼ばれるほどの選手を集めて、UEFAチャンピオンズリーグを制しました。大企業の広告宣伝を手伝うことは、いわばそんな強豪チームをさらにバキバキに強くするようなもの。

それは極端に言うと、「100を101にする」みたいな仕事でした。

けれどもマイノリティの世界へ目を向ければ、まだまだ世の中に知られていないことが山ほどありました。

1とか5の状態のものがむき出しのままたくさん転がっていて、だれかの目に留まることを、息をひそめて待っている。クリエイターがそこに光を当てれば、50か70くらいには持っていけるかもしれない。

そして、そんなまだ見ぬマイノリティは、きっと福祉以外にも、この世界にたくさん隠れている。

ゴミ箱
写真=iStock.com/seb_ra
※写真はイメージです

人生のコンセプトを考えてみた

こうして僕は、自分の働き方を再定義することにしました。

「見えない。そんだけ。」も、実は息子のために書いたコピーでもあります。息子のこれからの人生を考えたとき、「見えない。そんだけ。」と言い切りたかった。目が見えなくても、他者と豊かにコミュニケーションする視覚障害者の一面を、多くの人に知ってもらいたかった。息子を、息子の人生を高らかに肯定したいという強い気持ちがあった。だからこそ、結果的に多くの人に届いたのかもしれません。

同じように、今、さまざまな理由で「障害」とされているものの中から価値を見出したい。いや、それだけではなく、すべての人の中にある「弱さ」「苦手」「できないこと」といったマイノリティ性から社会を良くすることができたなら。「思いもよらなかったいい未来」が待っているんじゃないか。

「マイノリティデザイン」──マイノリティを起点に、世界をより良い場所にする。それを、自分の人生のコンセプトにしてみようと決めたのです。

そして、息子の障害と多くの友人たちの障害、という運命の課題との出会いを通じて、いよいよ僕は決めました。「『広告』をつくるのをやめよう」と。