「カラカラに喉が渇いていた」同士が出会った
自分たちのつくった洋服が、お客様の手に届くことなく廃棄されることもある。次から次へと新たな流行が生まれ、あっという間に忘れ去られていく。そんなことですこしずつモチベーションが削られ、自分のクリエイティビティがすり減っていくような、そんな感覚。
CMというシャボン玉をつくっている僕ら広告クリエイターと同じです。いや、どの業界のクリエイターも、同じような悩みを抱えているのでしょう。
けれども障害当事者たちの課題が突きつけられたとき、社員さんたちの目の色が変わりました。
障害当事者のみなさんは、ファッションというものに対して、カラカラに喉が渇いていました。「わたしたちは購入対象ともされていない」というあきらめの中、それでも心のどこかでオアシスを求めていた。「気に入った洋服を着たい」「それを着て、おでかけがしてみたい」。その渇きを、クリエイターたちにぶつけたわけです。
クリエイターたちもまた、カラカラに喉が渇いていたのかもしれません。表現としても商品としてもつくり尽くされているファッション業界で、障害当時者たちの課題が光り輝いて見えたのかもしれません。みんな、「もっといいもの」をつくりたかった。
もっと本質的なものを、心から求められるものを、「たったひとり」のために、持てる才能を注ぐことができるこのプロジェクトが、みんなの心に火を灯したんです。
マイノリティとマジョリティの世界に橋が架かった
2018年のリリースから2年が経った2020年の秋、「041」は雑誌「BRUTUS」に掲載されました。
今、ファッションの特集をやるなら、「きれいな服を買いましょう」という話ではなく、そもそも「人と服ってなんだろう?」という話がしたい。そこで栗野さんの元にも声がかかったそうです。「041」というプロジェクトが始動したのは、世の中で「ダイバーシティ」とか「SDGs」といった言葉が、今ほど叫ばれるより前のことでした。
それから数年が経ち、栗野さんの言葉を借りれば、ユナイテッドアローズには「041」というシード(種)が植えられ、ダイバーシティやサステナビリティに関するプロジェクトも徐々に進んでいるそうです。
また、プロジェクトに携わった方の中には、打ち上げの席で、「実は自閉症の家族がいる」ということを初めてカミングアウトしてくれた人もいたそうです。