共用の浴室はカビだらけ

脱会者への取材を進める中では、上記の他にもさまざまな証言が得られた。

・大人数で住んでいるためとにかく汚い。信じられない程汚れた浴室を利用していた。
・掃除が満足にされていないためダニが湧く。跡が残るほど刺され、かゆみで睡眠不足になった。
・深夜や早朝に電気をつけて作業をしている住民がいるため、落ち着かず眠れない。
・洗濯物や小物がよくなくなり、金銭の盗難も発生した。
・若い男女が集団生活しているため、夜になると隣の部屋から性行為の音が聞こえることがある。

特に衛生面に関しては問題がある。シェアハウスに住んでいた脱会者によると、浴室はバスタブや床部分がカビで真っ黒になっていたという。深夜まで勧誘にいそしんだ住民は、カビだらけの浴室で短時間のシャワーを浴びていたようだ。あまりに不衛生だ。

また、彼らはコロナ禍にもかかわらず、依然として密な状態で生活しているため、クラスターとなる恐れが高い。しかも「環境」では現在も変わらず路上での声掛けや勧誘目的の食事を行い、不特定多数と顔を合わせているのだ。

冒頭の物件での手伝いが終わり、私が部屋の様子を思い返していると、道路の先から見たこともないロゴを付けたバンがやってきた。引っ越し業者だった。Bさんによると、これは「環境」関連の業者のようだ。普通の引っ越し業者に頼んでしまうと、物件の異様さに驚かれてしまうためだという。

業者と共に引っ越し先へ向かったBさんと別れた私は、念のため帰路の途中で電車を降り、街中を歩き回った後に普段とは違うルートで帰宅した。

生活を勧誘漬けにし、いままでの人間関係を断絶させる

ここまで読んでいただければわかると思うが、「環境」を既存のマルチ商法などとは大きく異なる。

彼らは長い時間をかけて、こんなセリフで会員を洗脳する。

「起業すれば夢がかなう、そのためには『絶対に起業が成功する』方法を知っている師匠に服従し、ハードな勧誘を行うとともに『自己投資』を行わなければならない。自分たちこそ外界にはない成功法則を知っている」

その過程では、生活を勧誘漬けにする。また「活動を否定するものはドリームキラー(夢を邪魔する者)」「ネットの批判は負け犬の遠ぼえ」といった思想で、批判を受け付けず、人間関係を断絶させる。

黒のパーカーを着て白い面をつけた男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
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「意識の高い特別な仲間と生活でき、さらに家賃も安く済ませられる」と言ってシェアハウスに住まわせれば、起きてから寝るまで「環境」漬けの生活の出来上がりである。「この生活には意義がある」と強力に刷り込まなければ、前述のような住環境で生活させることはできないだろう。

刷り込みを行うという面では、まだ記載していない手法がある。「自己啓発セミナー」である。これは洗脳セミナーとも呼ばれ、数十〜数百人を密室に隔離し、強烈な精神的ストレスを与えるワークを繰り返し行って、「人生で起こることの全ては自分が源である」「物事には積極的に全力で取り組むのが重要」といった価値観を植え付けるものだ。