「家を買って1人前」だったのが…

中国では、ここ20年ほど、社会全体で「不動産を買って当たり前だ」という風潮が非常に強かった。中国ではかつて住宅分配制度が施行されており、人々は定められた住居に住んでいて、日本のように自由に好きな住宅を選んで購入することはできなかった。

その後、住宅制度改革が始まり、分譲住宅が建設されるようになって、1990年代後半から、不動産を購入できるようになった。だから、自分の財産になる上、転売もできる不動産は、中国人にとってのどから手が出るほど欲しいものだったし、現在もまだ大半の人にとってはそういう存在だ。

とくに男性は結婚する際、「不動産を必ず購入しなければならない。そうでなければ一人前の人間ではないし、結婚する資格がない」というのが通説のようになっていたし、不動産を買えないような(甲斐性のない)男性は結婚が難しいとさえいわれてきた。

だが、昨今では、必ずしもそうではなくなってきている。

背景にはいくつかの要因がある。第一に不動産価格が高騰しすぎてしまい、一般の会社員にはなかなか手が出なくなってしまっているという経済的な理由だ。地域によって異なるので一概にいえないが、上海市なら、中心部以外にある中古物件でも日本円で5000万円以上、新築ならば1億円以上はする。

中国の不動産店の広告
筆者撮影
中国の不動産店の広告

中国の都市部では、戸建ては富裕層以外にはあまりないので、これはマンションの価格だ。そのため、両親が子どものために1軒プレゼントしてくれる、などの場合を除いて、結婚の際に男性側がまず家を買うことは困難になりつつある。

「不動産奴隷」になりやすい戸籍の問題

第二に戸籍の問題がある。例えば上海市の場合、上海市以外の出身者は、職場がたとえ上海市で、上海市出身者とまったく同じ仕事をしていても、上海市の戸籍を有していないため、上海市で新たに不動産を購入する際、5年以上同市に税金を納めなければならないなど(都市によって基準は異なる)、いくつもの条件を課せられる。

これには上海市の住民を優遇し、都市人口をコントロールする政府の措置が関係しているのだが、それは北京市なども同様だ。このように、都市出身者と地方出身者の間に歴然とした「差別」が存在するため、もともと都市出身ではない人にとって、不動産は単に価格が高いというお金の問題だけでなく、それ以外のハードルが存在する。これが、これまでも不動産を購入する際の大きな足かせになってきたし、現在も変わっていない。