中国では「不動産が買えないと男性は結婚できない」と言われる。それだけ中国人にとって不動産の存在感は大きい。だが、最近は賃貸物件を選ぶ人も徐々に増えつつある。フリージャーナリストの中島恵氏は「これまでの中国人の『常識』が変わり始めている」と指摘する——。

晴れた日の現代的な白い建物の建築の詳細
写真=iStock.com/Magdalena Juillard
※写真はイメージです

2LDK、家賃8万5000円の良物件

「不動産ですか? うちは不動産を買う予定なんて、全然ありません。もし不動産を買ったら、毎月住宅ローンの返済をしなければなりませんよね。『不動産奴隷』になんて、絶対なりたくない。それに夫は自営業ですから、この先、いいときもあれば、悪いときもある。現に、昨年はコロナでだいぶ収入が減った時期がありました。

不動産ローンに縛られてギチギチした節約生活を送るよりも、できるだけ今の生活を楽しみたいんです。私たち、別に不動産を持ってなくても、今のままで十分幸せですから」

上海市在住の李越さん(仮名、32歳)は、あっけらかんとした表情でこう語る。夫婦ともに地方出身で、上海で出会って結婚して4年。3歳になる子どもと故郷から出てきた自分の両親の5人家族で、家賃5500元(約8万5000円)、2LDK(広さ90平方メートル)の賃貸マンションに3年前から住んでいる。

上海市中心部からそれほど遠くないわりには安い物件で「築年数がけっこう経っていたので、掘り出しものだった」という。確かに、比較的きれいなワンルームだったら、今の相場では同程度の5000元(約7万5000円)くらいはするので、それと比べたら、かなりお得な物件だ。広さ90平方メートルというと、日本人のイメージでは「広い」と感じるかもしれないが、玄関前の廊下など共用スペースも含めるため、実際に使用できるのは、この7~8割。中国では普通のサイズだ。

貯金は1000万円でも「家は買わない」

私と李さんとは、李さんが結婚する以前からの友人関係だが、彼女のSNSを見ていると、休日に親子3人で子ども向け動画を見ながら、リビングでダンスをしてみたり、両親も含めた5人でリゾート地の海南島にバケーションに出かけたりと、とても楽しげな様子。車も夫婦で2台持っていて、それぞれが出勤時に使用している。

李さんは会社員で月給は手取り8000元(約12万円)。夫の仕事は月によって変動が激しいが、大きな仕事が入った月には7万元(約100万円)くらいのときもある。貯金も日本円に換算して1000万円ほどあるというから、一見すると、生活にはとても余裕があるように見えるのだが、それでも、冒頭の理由で「不動産を買うつもりはない」ときっぱりいう。

今、この李さん夫婦のように、中国では独身の若者や若い夫婦を中心に「あえて賃貸派」がじわじわと増えている。これは4~5年前の中国では考えられなかった、まったく新しい現象だ。