※本稿は、デジタルシフトタイムズの記事「金融再編が加速する中、SBI北尾社長が描く地銀との共創・国際金融都市構想・ネオ証券化に、元銀行・証券マン田中道昭教授が迫る」を再編集したものです。
「ネオ証券化」で手数料ゼロを目指す
【田中】前編で顧客志向や顧客中心主義という話が出ましたので、「ネオ証券化」についてうかがいます。住信SBIネット銀行は、「ネオバンク化」を日本でも真っ先に実現されていますが、次に来るのはネオ証券化、次世代の証券業というところです。
売買の手数料をゼロにすると宣言されていらっしゃいますが、ただ単に売買手数料をゼロにしただけなら収益が上がりません。北尾社長の狙いは、より顧客志向、カスタマーセントリックを強めてその先に見据えるサービスで収益を上げていくところだと思うのですが、なにを見据えているのでしょうか。
【北尾】できるだけたくさんのお客さまに、できるだけ喜んでいただく。それに尽きると思います。
ただ、それを追求して手数料をゼロにしても、一企業として利益が上がらなければ駄目になってしまう。ですから手数料ゼロを具現化して、どうやって利益が上がる体制を作っていくか。これが知恵ですね。我々としては、2、3年後にはそういう形にしようと着実に動いています。
資本主義社会のひとつの哲理
【北尾】同業他社からは「北尾さんのところはそれでいいかもしれないけれど、我々はついて行けませんよ。お客さまをみんな取られて、独り勝ちの世界だ」とも言われるのです。ですが、批判を受ける独占というのは、例えば政府からある種の特権を与えられているようなケースです。
私が時々批判の対象にしている東京証券取引所は、パブリックカンパニー(株式公開企業)になっていますが、なんとなく“公”の臭いがして、市場を独占している。だから証券保管振替機構の手数料や清算手数料など、あのグループが提供する手数料は高いままです。
一方で、我々のようなケースは最終的に競争に勝ち抜いた上での“独り勝ち”です。その競争もお客さまにプラスになるための競争です。昔の独占という、モノポリーの概念は買い占めて値段を高くして儲けようというものです。我々はそうではなく、できるだけ安くして、できるだけマーケットシェアを取っていく。そのほうがお客さまにとっていいのではないか、ということですね。
業界を潰してもいいのかなど、いろいろ批判もあるかもしれないですが、それぞれの企業が知恵を出し戦略を立てて、どうお客さまにプラスになる世界を作っていくかを考えなければいけないですね。企業における重大な意思決定になるわけで、できないところはもう仕方ない。これは資本主義社会のひとつの哲理です。
ですから「北尾さん、それは独禁法違反じゃないか」と言われても、独禁法違反にどうしてなるの? と。我々はお客さまに喜んでもらうことをして、お客さまが最終的に我々の証券会社を選んだ、そういうことだと思いますね。