ネット時代の組織形態は「生態系」が最適だ

【田中】そういう意味ではインターネット証券を作られ、競合もたくさんいらっしゃいましたが、今はかなり明暗が分かれています。価格を下げながら規模の経済で勝負し、そこを起点に量から質を作るということで、見逃せないのは北尾社長の戦略の中の、企業生態系エコシステムです。まさしくそのエコシステムを作っていらっしゃるから、複数の事業を展開しているから、つまりは事業間シナジーを創造しているから、価格を下げても戦えるところが相当大きいのではないでしょうか。

【北尾】一度にできるわけではありません。Latecomer's advantage(後発性の利益)で、1つの出来上がった生態系から、新しく出発した会社はものすごい恩恵を被ります。我々は証券から出発し一定の成功を収めた後、2007年に銀行を作った。すると証券のお客さまが、銀行サービスも利用するようになる。そうすると、顧客獲得費用は大幅に下がるわけです。ですから私は、生態系という考え方がインターネット時代の戦略上、適切な組織形態だと思いますね。

【田中】おっしゃる通りですね。Appleも然りです。形式的に7割くらいの売上をハードで上げていますが、実際何で勝負しているかというと、ハードだけではなくてソフト、サービス、エコシステム全体でマーケットシェアをとっている。そういう意味ではSBIグループ自体も今や特定の事業と、特定の商品、サービスだけではなく、エコシステム全体で勝負しているという感じがしますよね。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

ネットワーク価値の時代に入った

【北尾】それが、私が言い出したネットワーク価値というものです。これを徹底的に追求する時代がくると。かつてセブン・イレブンの創業者・鈴木敏文さんが、私に「ダイエーのような価格訴求の時代は終わりました。価格が安いからという理由で、人はものを買わないのです。これからは、価値訴求の時代に入ります」と話してくださいました。その品物の根源的な価値にお客さまはお金を払うのだと。

その話をお聞きして、しばらくインターネットの世界でやってきた私が思ったことは、我々はネットワーク価値の時代に入ったということでした。ネットワークとしていかにお客さまに価値を提供するかということです。例えば、家を買いたいというお客さまがいれば、様々な不動産、物件の情報が必要になりますし、家を買うときには、住宅ローンの情報も必要です。そして、火災保険、ついでに車を買うとすると自動車保険が必要というように、家を買うという1つの行為に対して、様々な波及的な情報に対するdemand(需要)が出てくる。あるいはサービスに対するdemand(需要)が出てくる。それを全部私どものグループで提供できたら、非常に強いものになるのではないかと。そういう発想です。