まず「破壊」から入る

【田中】そうですね。そういう意味で北尾社長の大戦略が常にすごいなと思うのは、今回のネオ証券化でも、まずは顧客のために価格破壊から入り、ゼロにしてしまうというところです。おそらく必ずしも現時点では、万全の準備ができていらっしゃるわけではないでしょう。

そもそもインターネット証券を始められた時も、売買手数料をぐっと下げられた。常にディスラプターで、常に自己破壊をされていると思います。今回のそのネオ証券化で売買手数料をゼロにするというのも、まず先にそれらのための破壊ありきなのでしょうか。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【北尾】2、3年後には、そういう状況が確実に作れると思いますよ。私はヘーゲルの弁証法、量質転化の法則が非常に好きで。これは、量が増えれば質が改善する、質が改善すればまた量が増える、量が増えたらまた質が、というものです。

我々SBI証券はDay1から徹底的に手数料を安くせよと言っています。「いや北尾さん、そんなことしたら大赤字になりますよ」と皆が心配しましたが「いや、そうじゃない。いっぺんやろう。私が責任を取る」とやり出した。

「そんな(安い)手数料に」できる理由

【北尾】やってみたら、お客さまの数がどんどん増えるわけです。お客さまの数が増えたら、いろいろなお客さまのニーズがあるから、もっとシステムを補強し、品ぞろえを豊富にしなければいけない。あるいはコンプライアンスも充実させる必要がある。そうやって質的改善がなされると、さらにまた量(お客さま)が増えていく。

この好循環の中で、我々は、多くの人が言う「そんな(安い)手数料に」できているのです。今でも野村證券とうちを比べると、同じ銘柄を同じ株数買うのに、野村證券ではSBI証券の23倍の手数料を払わないといけない。お客さまにとっては、なんでそんな不合理なことをしないといけないのだとなるでしょう。

もしそこに合理性があるとしたら、それは唯一、野村證券がリコメンドする(勧める)株が全部当たる(値が上がる)ということです。それ以外のことではあり得ないと、私は言い続けてきています。こういうことをはっきり言うものですから、既存の、エスタブリッシュのところからは「北尾さんはけしからん」という声が出るのですが、私が向いているのは、常にお客さま、常に投資家です。彼らに一番いいことをやっていくということです。