【野地】その頃は何かくふうしましたか。

お金もなかったから、お金をかけることはできなかった。ただ、情熱。そして、サービスの品質を上げることでした。例えば、私どもの園では発足してからプラスチックの食器は使ったことがありません。陶器とガラスです。子どもが割っても、「陶器は落とせば割れる」といった体験をしてもらうためです。本物に触れること、それが教育だと思いました。

また、保育士は子どものあこがれでなければいけないと思ったので、園長、当時は私ですけれど、子どものお迎え、見送り時は必ずスーツを着るようにしました。保育士も仕事中は特注したユニフォーム姿で、ジャージは禁止。今も続いているサービスです。とにかく本物に触れてもらうのが私どものサービス品質です。

情熱と体験が子どもを育てる

【小林】また、私がアメリカに留学していたこともあって、ハロウィーンのシーズンには園の希望者の子どもを連れて、アメリカへ短期留学のような旅に出かけました。ひとり30万円くらいかかるのですが、「せひ、連れて行ってほしい」という保護者が何人もいたのです。

「コビーは本物に触れさせる教育をしている」と聞いた保護者のなかには片道2時間もかかって、預けに来る方もいました。園の人数は少なかったけれど、私も保護者の方々も精いっぱい、子どもに愛情を注いでいました。今でもその気持ちでやっています。ただ、アメリカへ連れていくことは認可園になってからはさすがにできませんけれど。

コビーアンドアソシエイツ代表取締役の小林照男氏
撮影=プレジデントオンライン編集部

【野地】情熱ですね。情熱と体験が子どもを育てる。

【小林】それから25年が経ちました。当時の子どもたちが年賀状をくれたのですけれど、医者になっていたり、海外でひとりで会社をやっていたり、スポーツやデザインの分野で活躍して世界的な賞を獲っていたリ……。

みんな、「あの体験を忘れない」と覚えてくれています。結局、子どもにとって役に立つことって、知識の詰め込みではなく、心に響く感動の体験だったんです。

私は大少子化時代になったら、さらにサービス品質を向上させることが生き残りにつながると保育士に言ってます。ちやほやすることじゃありません。心に響く感動の体験を増やすこと。それも本物の体験です。