誰でもできるようなサービスは通用しない

【野地】なるほど、私もひとつの例を知っています。スーツのAOKIホールディングスは東京オリンピックの日本選手団公式服装(開会式の服と結団式などの式典服)を担当することになりました。40社近い、ライバルと競って選ばれたのですが、決め手はサービスです。AOKIは1600人の日本選手・スタッフ一人ひとりをすべて採寸すると確約したんです。

出場選手が正式に決まるのは開会の40日あるいは30日前でしょう。これまでは既製のサイズを直して開会式に間に合わせていた。すると、アスリートの体は腕なり、太ももなり一部の筋肉が発達しているから、腰や太ももでサイズを合わせると、ぶかぶかの服になってしまう。

開会式の行進で日本選手団のユニフォームがあか抜けない感じに見えるのはデザインもあるけれど、みんな、ぶかぶかの服を着て歩いていたから、はつらつとして見えなかった。

ところがAOKIは300人のフィッターを揃えて、昼夜兼行で採寸して型紙も作る。「そんなことまでやるのか」というサービスをやらなくてはダメだと思う。笑顔がよいとか挨拶してくれるとか名前を覚えてくれているレベルの、誰でもできるようなサービスではもう大少子化時代には通用しないのではないでしょうか。

子どもだけでなく親へのサービスも向上させる

【野地】さて、保育園です。具体的にサービス品質の向上では何をするのですか。

【小林】今年の4月、千葉県の流山に新しい園をオープンさせますが、保護者向けのカフェを作ります。大人だけのスペースで園児は入れません。お迎えに来た保護者がほっと一息する場所を作りたい。仕事から子育てと、スイッチを切り替える時間を作ってもらいたいからです。

保護者は仕事帰りに子どもを迎えに行き、そのまま買い物や帰宅して家事に取り掛からなければならない。息をつく暇もないんです。結局、子どもへの小言も増えてしまう。コロナ禍も続いているし、少しでもストレスを軽くしてもらいたいからです。ゆくゆくはカフェだけでなく、例えばお総菜、お弁当、野菜を売るなど、子育てをする人々のライフスタイルを支援するサービスも展開したいです。

コビーアンドアソシエイツ代表取締役の小林照男氏
撮影=プレジデントオンライン編集部

【野地】体験を増やすこともやっていますか。

私どもの保育園は以前から、クリスマスには必ず「本物」のサンタクロースに来てもらっています。さっと衣装を着て白ひげを付けた職員ではなく、ちゃんと所作を研修で身に付け、豪華な衣装を着てメイクを施した別の園の職員がサンタクロースとして登場します。すべては子どもたちに本当にサンタクロースがいることを実感してもらうためです。