※本稿は、貞松成『AI保育革命』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
記録作業がほぼすべて「手書き」で行われていた
日本のさまざまな業界の中で、とりわけ保育業界では、ICT化の遅れが顕著となっており、そのことが現場の生産性を下げる要因となってきました。その点において、改善の余地が多分にあると言えます。
私がまだ現場で園長をやっていたときのことです。現場で必要とされる記録作業のほぼすべてが手作業で行われていました。具体的には、園児の登降園時間の記録、保育計画、活動記録など、多岐にわたる記録がすべて手書きだったのです。
加えて、出退勤の記録や連絡事項、日誌など、日々のルーチンワークに該当する事柄に関しても、手書きを中心に行われていました。しかし、これらの多くは、他の業界ですでにシステム化されており、手書きのままでは時間・労力ともに非効率的です。
そこで私はまず、手書きで行われていた記録作業を可能な限りエクセルに入力するよう、現場に指示しました。そうすることで記録の一元管理を可能とし、ミスや抜け、漏れを防ぎつつ、省力化を実現していったのです。エクセルに入力した次は、クラウドに上げて管理するようにしました。
このような工夫をするだけでも、現場の業務負担は大きく改善されていきました。ただ、長く勤めているベテランの保育士ほど、作業を手書きで行っていることの意味を疑うことがなく、むしろアナログであることの必要性を信じている傾向があったのも事実です。
「効率化」への現場の拒否反応が強かった
もちろん、デジタルデータとアナログはともに良し悪しがあります。しかし、人員が限られた中で、より良い保育サービスを提供するには、再現性を高めるためのテクノロジーの活用が不可欠です。その点において、若い保育士のほうが順応性は高いかもしれません。
「教育」という側面から考えると判断は難しくなりますが、「保育士の事務作業を省力化する」という発想で考えれば、システムの導入は合理的な判断であることがわかります。なぜなら、事務作業の時間を減らせれば、保育士はそれだけ園児との交流に時間を使えるからです。
「保育の効率化」という議論は、この点で誤解が生じやすい部分でもあります。私が保育園の運営管理システム「CCS(チャイルド・ケア・システム)」を開発し、他の保育園でプレゼンテーションをしたときも、「保育を効率化するなんて、子どもを放っておく発想だ」という拒否反応が少なくありませんでした。