※本稿は、遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
ストレス耐性の強さは「自我」で決まる
若い男性の小学校教師が、出勤しようとすると吐き気や頭痛を催すとの訴えで通ってくる。
彼は学校の倫理研究班に所属し、どのような倫理教育をすべきかを研究して発表するよう、リーダー格の40歳くらいの女性教師から命じられていた。
本来の教職と離れた研究活動だが、彼が勤める小学校は地域のモデル校として指導的な役割を求められていたから、引き受けないわけにはいかなかった。
しかし、何度研究論文を提出しても女性リーダーは書き直しを命じてきた。
彼女の意に沿う内容でなければ受け入れない様子だった。彼女は、これまで教育委員会や文部科学省の依頼に応じ、さまざまな研究を手掛け、自らの評価を上げてきた。
ところが、そのほとんどの実務を、彼女は彼に押し付けてきた。そもそも勤務時間外に行う研究活動だから、上級官庁の依頼とはいえ、理由を付けて断る学校はいくらもある。
彼も「ノー」と言えばいいのだが、どこか母親にも似た強いリーダーに逆らうことができなかった。
病を跳ね返す力にはいろいろあるが、ウイルスや細菌への抵抗力、怪我からの回復力、癌細胞を排除し抑え込む力などをひっくるめて免疫と呼ぶ。
免疫とは侵襲してくる、何がしかの力を押し返し、ノーという作用を言う。当然、心の病にも免疫というべき働きがある。
さまざまなストレスへの抵抗力、回復力が弱まると、些細なことで人は死にたくなるかもしれないし、逃げ出したくなるかもしれない。
こうした心の免疫を担うのは、知識とか感情というものを包む自我というものである。