データの蓄積で「その子に何が必要なのか」が見えてくる

もちろん、「そのような目に見えないものを、どうやって計測するのか」という問題は残るものの、目に見えないものを「見える化」する取り組みは、保育サービスの質を左右する重要な要素になると思います。それを、保育士の経験や勘だけに頼るべきではありません。

事実、保育士はそれぞれ、見ているところが違います。細かいところに目を配り、園児の興味・関心の差や成長の度合いに目を配っている保育士もいますが、そうでない保育士もいます。また、細かい気配りができる保育士が、細かい記録を取っているとは限りません。

重要なのは、保育士が日々の保育で気づいたことを、データとして蓄積することです。定量的なデータだけでなく、定性的なデータをも積み重ねていくことによって、「その子に何が必要なのか」が見えてくると考えているためです。

ラップトップキーボードのアップ
写真=iStock.com/Jecapix
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私はそのようなデータの活用が「保育の個別最適化」につながると想像しています。小学校に上がってしまうと、ほぼ一律の評価軸によって評価されてしまうことを考えれば、未就学児のうちに個性を育むことが大事です。

そして、そのためには、未就学児の段階からどれだけ気づきを蓄積できるかがカギを握ると思います。まだ雲をつかむような話かもしれませんが、そのようなデータの活用と学習の方向性が合致したとき、エビデンスに基づいた教育が一歩前進するでしょう。

いずれにしても、現場の保育士が蓄積してきた暗黙知を形式知として活用してこそ、保育園における学びの価値をより高められることは間違いないでしょう。端的に表現すると、園児の気づきを大人が気づいてあげることが、何よりも大事です。

優秀な保育士のセンスを保育園全体で共有できる

優秀な保育士であれば、数値データを活用しなくとも、個別最適化に近い教育を実施することができるかもしれません。ただ、そのようなマンパワーをシステムで共有可能にするところに、ツールのポテンシャルがあるはずです。

CCSのようなシステムをより発展させることによって、理論上は、すべての保育士を経験豊富なベテラン保育士に育て上げることも可能となります。それはすなわち、外的なエビデンスを内的なエビデンスに昇華させることに他なりません。

貞松成『AI保育革命』(プレジデント社)
貞松成『AI保育革命』(プレジデント社)

よく「センス」という言葉が使われるのですが、センスの有無によって児童に対する教育内容が変わってしまうのは、保育園全体として望ましいことではありません。

それぞれの児童が遊びの中で得た気づきや興味を見抜き、そこを自然に伸ばしてあげるような保育サービスを提供すること。それを子どもたちは、感覚的に「楽しい」と感じるのではないでしょうか。未来の保育は、そのレベルまでアプローチできるはずです。

内的な発見を細部にわたって数値化する取り組みは未だ道半ばですが、CCSのようなシステムによって蓄積されたデータとその活用によって、何らかのヒントは得られるはずです。その土台となるエビデンスが、保育の現場で培われています。

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