事務作業の時間が減るほど、園児に費やす時間が増える

教育に対する姿勢はアナログ的でもいいのですが、新しいテクノロジーをただ拒否しているだけなら問題です。事務作業に使う時間を削減できれば削減できるほど、園児に費やす時間が増えることを理解しなければなりません。

自分が向き合っている目の前の園児のことだけでなく、保育園全体のことが考えられる人は、合理化や生産性向上が何をもたらすのかについて理解しています。しかし、そうではなく、長年慣れている手法にしか関心がない人は、いつまで経ってもシステムを活用できません。

ただ、そのような姿勢が、保育士全体の労働環境を過酷なものにしていることも、忘れてはならないのです。厚生労働省では、2017年4月からICT化を後押しするべく、補助金の助成を開始しています。こうした国の方針からも、保育業界の実情が垣間見えるのではないでしょうか。

「経験・勘」重視から「エビデンス」重視の保育へ

保育園におけるAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用は、エビデンス(証拠、根拠)が求められる未来の保育へとつながっています。これからの保育サービスは、保育士の経験や勘のみに基づいて行われるのではなく、情報やデータも活用したエビデンスが必要だと思われます。

この場合の「エビデンス」には、2つの方向性があります。

1つは、「園児が何時に登園して、どのような活動をし、体調や体温はどうだったか」といった数値データのことです。これらのデータが、適切な保育サービスの提供につながります。

もう1つは、同じ活動をしている中で生じる、園児ごとの違いに関するデータです。たとえば、みんなで水遊びをしているとき、A君は「冬の水は冷たいんだ」と思う一方、B君は「どうすれば遠くまで水が飛ぶのかな」と考えるかもしれません。あるいは「水は細かくなると霧になる」「シャワーの近くでは虹ができる」など、園児がそれぞれ異なる気づきを得ていることがあります。

おもちゃで遊んでいる子どもたちと先生
写真=iStock.com/maroke
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そうした違いに目を向けられるかどうかは、これまで現場の保育士の経験と勘に大きく依存していました。しかし、今後AIやIoTを活用して測定できるようにすれば、経験や勘、つまり個々人のセンスに頼ることなく、園児の気づきを認識できるかもしれません。それが結果的に、個性を伸ばす教育へと結びついていくのです。