手記』にははっきりと書かれていませんが、離婚後は母親が結愛ちゃんの親権者となったようです(日本の法律では、婚姻中は両親が共同で親権を行使しますが、離婚後にはどちらか一人だけが親権者となります)。離婚後に彼女は結愛ちゃんと二人の生活を支えるために、キャバクラで働きました。離婚後しばらくは元夫と会っていたと書かれています。彼は養育費を払うことはなく、むしろ彼女に多額のお金を強く要求してきたのを断りきれなかったと書かれています。

「今度こそ憧れの家族になれるはずと信じていた」

離婚後に彼女は、働いていたキャバクラのボーイだった男性と親しくなりました。そして、その人柄にかれていきました。彼について、「結愛と遊ぶのも面倒を見るのも上手だった。結愛もすぐなついた」と『手記』に書いています。そのときの気持ちを、「私は今度こそ、お父さん、お母さん、娘というあこがれの家族になれるはずと信じるようになった」と表現しています。

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以上のような母親の『手記』第1章の記述を、すでに紹介した継父の法廷での陳述と重ね合わせてみましょう。すると、結愛ちゃんの母親も継父も、新たな家族生活に理想や憧れを持ち、積極的に、前向きに家族関係を築こうとしたという点では一致していることがわかります。目標とする家族像は、「お父さん、お母さん、娘」という構成の家族です。

娘の将来について毎晩話し合っていた

この『手記』には「継父」という表現はまったく登場しません。継父が結愛ちゃんの「父親」になって、夫婦とその子どもから成る核家族が再構成されるイメージです。実際、継父は継子と養子縁組をしたのですから、親権者であり、法律上も「親」になったことになります。

一方、結愛ちゃんの「父親」は、結愛ちゃんの人生から姿を消しています。「親」ではなくなったように見えます。この時点で継父は、結愛ちゃんにとっての唯一の「父親」になり代わりました。そして、結婚後ますます結愛ちゃんの教育に熱心になったようです。「両親二人の教育方針がバラバラだと結愛が混乱するから」と言って、毎晩仕事から帰ると結愛ちゃんの将来についての話し合いが始まったというのです。

父親をリーダーとして夫婦が連帯したチームとなり、子どもの教育に力を入れる家族がスタートしたように見えます。最終的に、暴力やハラスメント行為に突き進んでしまったことは明らかに問題です。しかし、当初二人が目指したことに問題はなく、「正しい」道を歩み始めたようでもあります。