いまや3人に1人ががんにかかる時代だ。いざ自分が、家族ががんになったら──。3組の夫婦から生きることの喜びを学ぶ。

10年以上にわたる闘病生活のなかで坂田さんが受けた手術や内視鏡治療は27回を数える。通院途中の新幹線のなかでは、喉の調子が悪くて涎がとまらず、車内販売で買ったコーヒーのカップに溜めていた。苦しい思いを逃れようと、ついビールを口にすることもあった。そんな坂田さんががんと向き合うことのできた理由の一つが、「いつか建築現場に戻って働きたい」という強い思いがあったことである。

99年8月に子宮頸がんの手術を受けて子宮を全摘出した河村裕美さんも、「退院して自宅に戻っても、テレビかインターネットを見ているだけ。社会から取り残されるという恐怖感に襲われました。1日も早く職場に復帰したかった」と語る。静岡県庁で地域振興という興味深い仕事に携わっていた河村さんは32歳の若さだった。

(南雲一男=撮影)