今も健在「浪速の町アイス」
大阪・ミナミ。難波の戎橋商店街に店を構えるのが、「アイスキャンデー北極」だ。
創業は1945年。以来、75年にわたり現在の場所に店舗を構える。今回登場している各社が大手なのに対して、いわば「町アイス」。いつの時代も浪速っ子の暮らしを彩ってきた。当時と製法は変わらない。この夏も、棒が斜めに刺さったアイスキャンデーで勝負する。
「初代が、敗戦で焦土と化したこの地で『せめて子どもたちや女性には冷たくておいしいアイスキャンデーを』とつくりはじめ、当時は貴重な砂糖を使って1本20円で販売し始めました。現在も当時と同じ手づくりで人気味は変わらず、ミルク、あずき、パインの順です」
創業者の長女で、運営会社アークティック代表で3代目社長を務める久保田光恵さんはこう話す。
店名は「北極」なのに、トレードマークは南半球にしかいないペンギンだ。「なぜペンギンなのか」は、創業者が亡くなった現在ではわからない。詮索するのも野暮なのか。
往時に比べて本店の店舗面積は縮小したが、お土産として人気だ。筆者も小学生時代、亡父が大阪出張土産で買ってきてくれた。古くからお土産需要にも対応していたという。今回のコロナで20年4月から営業自粛を強いられたが、副産物があった。
「休業中にネット販売が驚くほど伸びたのです。19年、出演した『がっちりマンデー!!』(TBS系列)が再放送されたこともあり、北海道から沖縄県まで各地から注文が殺到。20年4月は前年同月比で100倍は売れたと思います。『昔、淀屋橋の会社に勤めていた。その後、東京に引っ越してしまったのですが』など、大阪時代を懐かしむお客様も目立ちました」(久保田さん)
20年6月には「父の日」のプレゼント需要も目立ったという。その中には、コロナで老親に会いに行けない子ども世代からのギフト注文もあった。
「昔ながらの味」だけでなく、新商品開発にも力を入れる。現在は十数種類を展開し、ピーチや梅の味も試作した。「手づくりゆえ、釜での製作がむずかしく断念したが、今後も企画開発していきたい」と3代目社長は明るく話す。
アイスと“ノスタルジー消費”
「アイスキャンデー北極」のような、昔ながらの味を楽しむ消費者は一定層いる。いわば“ノスタルジー消費”だ。
そもそも、家庭用アイスの上位ブランドはロングセラーがほとんどで、人間でいえばアラフォー(40歳前後)やアラフィフ(50歳前後)も目立つ。各人気ブランドを、子ども時代から親しんできた中高年や若手世代がそれぞれ楽しむ──という構図だ。
またフレーバーでは、昔も今もバニラが強い。「エッセルスーパーカップ超バニラ」は、同ブランドの2位フレーバー「チョコクッキー」の約4倍売れると聞く。
これだけ食の多様化が進み、世界各国の味も楽しめる現代ニッポンで、「アイスの味は定番が好き」というのも興味深い。