そして消費者には見分けがつきにくいが、森永乳業という兄弟会社がある。だがライバル明治(明治製菓と明治乳業が経営統合)のように“ONE森永”となることはなく、アイス市場では競合している。製菓は前述の「チョコモナカジャンボ」が絶対的エース、乳業は「ピノ」や「パルム」が看板ブランドだ。

森永製菓には「アイスボックス」のような人気氷菓もあるが、「製菓の軸足」にこだわる。「食感」「口溶け」は、菓子でもよく登場するフレーズなのだ。

禁断の「野菜味」に挑む

「文化と風俗は西からやってくる」という言葉がある。商人の町・大阪は新しもの好き、という意味でも受け取った。

20年3月30日、「パピべジ」というアイスが江崎グリコ(本社・大阪府大阪市)から発売された。人気ブランド「パピコ」の派生商品で、野菜味のアイスとして第1弾は「りんご&にんじん」「キウイ&グリーン」が発売。20年8月12日には第2弾「トマト&オレンジ」が追加投入される。

江崎グリコ アイスクリームマーケティング部 ブランドマネージャー 上木裕子氏
江崎グリコ アイスクリームマーケティング部 ブランドマネージャー 上木裕子氏

「厚生労働省は、成人の1日当たりの野菜摂取量について350グラムを推奨していますが、約62グラム不足しているのが現状。この不足分をデザート感覚で補えるのが『パピべジ』です。少し小さいサイズで低価格なので、野菜を無理なく習慣的に摂れます」

「パピコ」のブランドマネージャーである江崎グリコ・アイスクリームマーケティング部の上木裕子さんは、開発の経緯をこう説明する。「商品は20種類以上の野菜とフルーツ入り」ともはや野菜ジュースの域だ。取材班も試食したが「まるでスムージー」(20代の男性編集者)だった。

「『ラクして野菜を摂りたい』という消費者ニーズに応えたいと、グリーンスムージーも意識しました。当社は『おいしさと健康』が企業理念で、『ユニークネス』な社風もある。それを今回の商品にも込めています」(上木さん)

実は、野菜味のアイスには成功事例がない。2014年にはハーゲンダッツが「スプーンべジ」として投入したが不発。消費者の支持は広がらなかった。

「甘さで幸せを感じたい」アイスでの野菜訴求は、なかなかむずかしい。だが、これも「AだからB」という消費鉄則かもしれない。「甘いアイス」(快楽)と「健康維持の野菜」(禁欲)。微妙な消費者の琴線に触れられれば面白い。

5ブランドが支えるアイス事業

「パピコ」の発売は46年前の1974年。当初は「乳酸サワー味」で、77年に現在でも主力の「チョココーヒー味」が登場した。チューブ型の容器で手に持って食べられるのが特徴だ。2本入りで小分けできるのも、細切れ時間をこなす現代に合っている。

かつては、ガリガリとした食感だったが、90年代後半に「なめらかな食感」に変えた。2015年以降、それを強く訴求してから売り上げも拡大していった。19年、東北に出張した際、パピコのファンという50代の県会議員にも会った。